#2 クレーム電話:事実を針小棒大化する人たち

 JR稲毛海岸駅近くのパチンコ屋勤務に就いて半年近くになる。3月にはテレビ東京の「WBS ワールドビジネスサテライト」で私の執筆した『交通誘導員ヨレヨレ日記』の紹介と私の勤務ぶりを取材したものが7分ほど放映された。夜中の12時近くの放映だったので、テレビを見る人などそうはいないだろうと思っていた。

 ところが翌日、立体車庫入口前でクルマの誘導業務をしていると何人もの通りがかりの人から「テレビを見たよ」と話しかけられた。本の売れ行きもグンとアップしたと版元の編集者から電話がかかってきた。テレビの影響力の大きさを改めて感じたものである。

 しかし、いいことばかりではない。329日日曜日の午前中はみぞれ混じりに時々雪となる荒天で、その上強い風が吹き、ビニール合羽を着ても舗道上で交通誘導ができる状況ではなかった。立体駐車場の中に15mほど引っ込み、吹き込む雨風をしのぎながら入出庫のクルマの誘導をしていた。気温は0度前後でとにかく寒い。東京では季節外れの雪が積もっていた。

 ようやくみぞれもピークを過ぎた午後1時半頃、昼食休憩から戻って所定の位置に立っていると店員の九条が私の前に来て「柏さん、お客さんから苦情の電話が入ったんですよ。あの警備員は寒いせいか入る時も出ていく時も全く誘導しないので危うく自転車と接触しそうになった。けしからん奴だ」と言うではないか。

 確かに寒さと強く吹きつけるみぞれのせいで体の動きが緩慢だったかもしれないが意図的にサボタージュした覚えはない。それを九条に言っても意味がないので「以後気をつけます」と謝ったものの「自転車と接触しそうになったというのは嘘ですよ」とだけは言わざるを得なかった。

 なぜなら、午前中2時間ほどの誘導時間中には、みぞれと寒さのせいで目の前を自転車は数台しか通らなかった。出ていくクルマは10数台で、その様子を私は全部つぶさに見ていたからである。クルマと自転車が接触しそうになったシーンは全くなかった。「私も柏さんが普段からちゃんとやっていることは知っていますが、でも気を付けてください」と言って九条は店内に戻っていった。

 自己正当化するつもりは毛頭ないが、この客は負けた腹いせで事実を針小棒大にして店員に怒りをぶつけたのではないだろうか。

 というのも、近くのコンビニの店員から明らかにパチンコで負けた客が些細なことで店員を怒鳴りつけることが多いと聞かされていたからである。

 親しくなった掃除夫が話したところによると、新入りの掃除夫に自転車置場の前で仕事の段取りを丁寧に教えていたところ、遠くからそれを見ていた女性客が店員に「あの掃除夫2人は油を売っていて全く仕事をしていない」と告げ口をしたそうである。全く余計なお世話だと、その掃除夫は憤慨していた。

 客のクレームには正当なものもあるが時にはこんな理不尽なものもある。警備業はサービス業と研修でも教わったが、時と場合によっては23日気分が落ち込むこともあるのだ。


柏 耕一 かしわ・こういち
1946年生まれ。出版社勤務後、編集プロダクションを設立。出版編集・ライター業に従事していたが、ワケあって数年前から警備会社に勤務。古希を過ぎた現在も交通誘導警備員Bとして日々現場に立っている。2019年7月に上梓した『交通誘導員ヨレヨレ日記』(三五館シンシャ発行)が隠れたベストセラーとして注目を浴びている。