#1 わからず屋:警備員と警察官の権限

 世の中は「話せばわかる」人ばかりではない。そんな思いを強くする出来事が今日の現場であった。

ガス工事現場は信号機のある交差点の直近である。ガス管の新設で、交差点の横断歩道脇から2車線道路の1車線を50mほどカラーコーンで囲って工事を進めることになった。警備員は4人で、専従が2人に私を含めた応援が2人。

 私と専従の山内と2人で片側交互通行をすることになった。休憩の時には応援の古沢が交代要員となった。山内は22歳だが専従となって2年の経験がある。おとなしい性格だが裏表がなく、身を惜しまず働くため現場の親方の信頼も厚かった。私が交差点の横断歩道際に立ち、山内はおよそ70mほど離れた場所で通行車両を停めたり流したりする役割をする。火気厳禁のガス工事現場なので、誘導灯ではなく赤旗白旗を両手に持つ。

午後1時半を回った頃だった。交差点の信号は青だったが、山内の赤旗の合図で一旦は停まっていた4トンダンプが山内の制止を振り切って交差点に向かってきた。とはいえ、70mの距離があるため、交差点に着いた時には、すでに赤信号になっていた。

この信号は30秒で色が変わる。すると50歳を過ぎた丸坊主のガラの悪そうな運転手が窓を開けながら私に悪態をつき始めた。

 「オマエら警備員には、青信号なのにクルマを停める権限なんてないんだぞ。ふざけんじゃねえ。会社の電話番号を教えろ!」と喧嘩腰である。

 確かに、交通誘導員には警察官のような権限はない。警察官は、緊急時には赤信号でもクルマを通すこともできれば、一方通行の道を逆走させることもできる。交通誘導員はドライバーにお願いすることしかできない。私も乗用車のドライバーなら我慢したが、相手はプロのドライバーである。

 「アンタ、何を言ってるんですか。このダンプを黙って行かせたら交差点まで距離があるから信号が変わるじゃないですか。見なさいよ。右も左も正面もクルマが詰まってしまったじゃないですか」

 「何お~、なめた口を利くんじゃねえぞ。それにアイツは旗の棒で運転席のドアをブッ叩いたんだぞ。警備員の責任者を呼べ!」

 私が遠目で見たところ、旗棒で叩いたというより、急にダンプが発進したので驚いた山内が赤旗で停めようとしたため運転席付近に軽く当たったように見えた。何でも大げさなヤツだ。女性隊長の前田から会社の名刺を受け取ったこの運転手は、ようやく帰って行った。やれやれである。

ところが、何とそれから約1時間後、運転手は警察官2人を連れて戻ってきたのである。ビックリしたのは私である。何が何でも若い山内を懲らしめたかったのだろう。当然、警察官から山内は事情を聴かれる羽目になった。

後で山内に聞いたところ、同情した警察官は「キミは悪くない」と言っていたそうである。それはそうだろう。警察官に心得違いを諭された運転手は、逆上して大声を出して食ってかかっていた。こんなわからず屋を相手に警察官も大変だなと思ったものである。



柏 耕一 かしわ・こういち
1946年生まれ。出版社勤務後、編集プロダクションを設立。出版編集・ライター業に従事していたが、ワケあって数年前から警備会社に勤務。古希を過ぎた現在も交通誘導警備員Bとして日々現場に立っている。2019年7月に上梓した『交通誘導員ヨレヨレ日記』(三五館シンシャ発行)が隠れたベストセラーとして注目を浴びている。