#3 業界全体が問題点を抱えているトイレ清掃


 私はトイレ清掃に強い思い入れを持っています。トイレはその建物の“顔”になる場所です。だから、清潔さをしっかり保たなければなりません。しかしトイレ清掃に対して、この業界全体はいくつかの問題点を抱えています。

 昔からトイレ清掃は女性、ロビー清掃は男性の仕事という慣習みたいなものがあります。ところがトイレの清掃を監督している責任者は人を管理するだけで、トイレの中に入って実際どんな清掃が行われているか、確認できないのです。というのも、会社の上の人たちは、ほとんど男性で占められているんですね。今は徐々に改善されてきていますが、まだまだこの業界の悪いところだと思います。

 なぜこんな指摘をするかというと、トイレ清掃を一生懸命やっている女性たちが、評価されてこなかったから。良いも悪いも、どちらも見てもらえていないのです。みんな仲良くやって仕事が回れば、それで良しとされている。仕事の指示も、「こことここのトイレを、この時間帯にやってください」と言う以上に細かいものはなく、どの程度のところまでやればいいかは現場任せになっていることがほとんどです。どこの会社にも、トイレ清掃の基準がないのが問題なのだと私は思います。

 その上、トイレを清掃する女性たちの仕事は、ロビーを清掃する男性たちに比べると、ものすごく多くなっています。一般的に「トイレ清掃」というと、洗面台と便器しか頭に浮かばないでしょう。清掃の基礎を教えるテキストも、ほとんどその二つが中心です。しかし、トイレは“一つの部屋”。「トイレの中を清掃する」ということは、天井から壁、便器、洗面台に至るまですべて清掃するという意味なのです。

 昨今、トイレ内の設備、デザインはドンドン変化してきています。温水洗浄便座、ハンドドライヤー、ベビーチェア、ベビーベッド、子供用トイレ、チェンジング・ボード、パウダールーム、オストメイト、授乳室……。これらはすべて、昔にはなかったものです。着替え用のスペースも、単にチェンジング・ボードを個室内に設置するだけではなく、羽田空港などではチェンジング・ルームとしてトイレ内に別個のスペースが取られています。個室も大型化が進み、多目的の大型ベッドを入れた個室など、人が住めるような大きさになっています。

 羽田空港もそうですが、トイレの外にはよく冷水器が設置されていますよね。あれもトイレ清掃とセットになっています。昔に比べ、トイレ清掃の範囲や面積はどんどん広がり、細かい作業が増えているのに、清掃に従事する人間の契約形態は便器、洗面台だけだった時代と変わりません。設備と清掃は、未だ別の考え方なんです。 トイレ一つ清掃するのに、今どれだけの時間がかかるか。アルバイトスタッフは1時間いくらの契約で仕事をしていますが、1時間では絶対に終わらない仕事が、女性には多いのです。そこで女性スタッフは、ますますストレスを溜めてしまいます。そのあたり、やはり清掃会社の責任者の方々がキチンと現状を把握し、対策を考えてほしいと思います。

新津春子略歴 1970年、中国・瀋陽生まれ。日本空港テクノ株式会社社員。「環境マイスター」として羽田空港で活躍。2018年よりハウスクリーニング「思う心」を率いる。20年7月、YouTube『新津春子の優しいお掃除チャンネル』を開設。