#6 大小合わせ、月に100台ほど点検中

 私が定期点検を担当しているエレベーターは、8割方が“物流系”と呼ばれているものです。貨物やトラックを載せるため、積載量3トン、5トンは当たり前。4トントラックが丸々1台入る、積載量10トンのエレベーターも扱います。

 小さい方は、料亭や学校給食の現場などで使う小荷物専用エレベーター。こちらは積載量が30キロから100キロ程度の小さなものもあります。大きなエレベーターも、小さなエレベーターも、基本的な仕組みは一緒です。

エレベーターは、扉が正常に閉まっている状態の時“ドアスイッチ”が入り、カゴが上下します。ドアスイッチが入って扉が閉まっているにもかかわらず、「扉が開いていますよ」と異常を訴え、カゴが動かなければ、それは故障です。これはエレベーターの大小にかかわらず、同様に起こり得ます。

定期点検の担当になっている日は、1日大体56件回ります。地域的には名古屋市内を中心に、車で1時間程度離れた知多半島の方までカバーしていますので、移動、作業の所要時間によっては13件ほどしか回れない日もあります。エレベーターが78台~10台ほどあるような大きな工場の定期点検は1カ月に1回、21組のチームを組んで行います。各チームが34台点検するのですが、大概1日がかりです。

定期点検の日付や時間は、お客様に指定されることもよくあります。一番多いのは、お昼の休憩時間内か、午前7時や7時半頃から作業を始め、8時半の始業までに終わらせるスケジュール。倉庫や工場などは土日、会社の休日に合わせて点検を行うため、ガランとしてひと気のない現場で担当者が一人、待っていることも多いですね。

小荷物専用エレベーターも含め、今は私一人で月に100台ほどのエレベーターを点検しています。点検内容のチェックは、会社のフォーマットで報告書を作るほか、自分でも状況に応じたチェック事項を考えています。同じエレベーターを毎月チェックしているので、月ごとに重点的に見るポイントを細かく見ていくわけです。

駆け出しの頃は、エレベーターが動く際に変な音がしないか、扉が開く時に変な動きをしないか、そんな基本的なところから報告書のチェックシートに従って一つ一つ、点検していきました。3年、4年と経験を積んでいくうち、前月の点検時との動きの違いが、シートを見なくてもわかるようになりました。

今はむしろ、人の現場を引き継いだり、“代打”で行ったりする方がよっぽど怖く、不安です。自分の担当現場なら毎月自分の目で見ているので、ある意味安心できます。しかし、他の人がどこまで細心の注意を払って点検しているかは、正直言ってわかりません。万が一にも事故が起きると、人命にも関わる大きな事態になるため、点検員には慎重さが求められます。私はこの仕事が自分に向いているとは思いませんが、この“慎重さ”という点では大丈夫です。

一方、故障修理の方は56時間かかることもザラですし、時には11時間、朝までかかることもあります。今年50歳になりましたが、体力的にもまだまだ、問題はなさそうです。

高橋智(たかはし・さとし)氏略歴
1967年1月26日、神奈川県生まれ。向上高から1985年にドラフト4位で阪急(現オリックス)ブレーブスに投手として入団。その後外野手に転向し、92年5月27日の日本ハム戦では3打席連続本塁打で6打点、同6月4日の近鉄戦では当時のプロ野球タイ記録となる8試合連続長打を達成。同年は打率・297、29本塁打でベストナインに輝く。99年にヤクルトへ移籍し、01年に現役を引退。現在は愛知県名古屋市でエレベーター整備士として勤務している。プロ野球15年間の通算成績は打率・265、124本塁打、408打点。オールスターゲーム出場2回。