VOL.2 新たな在留資格「特定技能」の序章

 新元号の発表とともに幕を開けた新年度。「働き方改革」「公的年金引き上げ」など、時代が大きく変化していることを示唆するキーワードがあふれている。こういった日本の話題は、世界中どこにいてもネットニュースによってリアルタイムで手に入る。スマホひとつで日本を感じ、世界へ発信ことができるのだ。

 2018年12月に成立した「改正出入国管理法」により、この4月から新在留資格「特定技能」が始まった。深刻な人手不足と認められた14の特定産業分野に、今後5年間で約34万5000人を上限とする外国人材の受け入れが行われる。職種ごとに求められる日本語能力と技能評価の試験に合格するか、あるいは3年以上の実習を受けた技能実習生は試験免除で、同一職種の特定技能労働者として5年間の在留ができるようになったのだ。「ビルクリーニング」においても3万7000人の枠が設けられ期待が寄せられる。一方、かなりの駆け込みで船出するこの制度は、未だ煮詰まっていない感も否めない。ガイドラインは公表されたものの、その具体的な運用ルールについては、まだ解像度が粗いままだ。

 ここベトナム・ハノイでは、日本での状況と少々趣が異なり、既に「特定技能」へ向けて臨戦態勢を整える送り出し機関が少なくない。今年に入ってからというもの、日本でニュースが流れると、送り出し機関の幹部から数本のLINEコールが入る。「川口さん、建設職種の具体的な作業項目はどうなるの?」、「監理団体は通さなくてもよいの?」、「ベトナムで試験が始まるのはいつから?」等々、まるで私が特定技能の日本代表であるかの如く詰め寄られることもしばしばだ。大手送出機関A社では、2月頃から技能実習「建設」職種のОBリストの整理を進めており、既に1万人以上のデータベースを構築済みだという。ベトナムでは、「建設」職種は募集をかけても、もう新たな応募者が集まりづらいといわれる。「特定技能」のスキームを使えば、試験免除で過去の実習生ОBを再デビューさせることが可能であり、日本語学校での研修期間も不要となる。同社の幹部は、日本からオーダーがあれば、いつでもすぐに建設人材を派遣できると豪語する。

 「ビルクリーニング」は、2017年4月から技能実習制度に新たに加わったばかりであることから、まだ3年以上の実習を受けた技能実習生ОBが存在しない。ビルメンテナンス事業者は、今秋実施される「特定技能」の試験合格者を待つか、従来の「外国人技能実習制度」を活用するか、どちらかの選択になる。各国の送り出し機関が、「ビルクリーニング」人材輩出へ向けてどのような体制を作っていくのか大いに注目していきたい。新しい時代「令和」と共に動き出そうとしている「特定技能」から目が離せない。

掲載;2019.4.22号

【川口環(かわぐち・たまき)氏略歴】1968年1215日、愛知県生まれ。中央大学卒業後、TOTO㈱を経てWebマーケティング会社 ㈱ジェイティップスを設立。約20年間にわたり多数の大手企業Webマーケティングに関与し、グロースハックさせる。ニッチ領域のWebメディア開発を得意とし、数々のバーティカルメディアを立ち上げ。昨今は、外国人技能実習の無料相談ポータルサイト「外国人技能実習360°」プロジェクトマネージャーとして、海外送り出し機関のリサーチと受け入れ企業の相談にあたっている。年間20回以上海外出張し、約150日間を東南アジア各国で活動する。