VOL.1 年間150日の現地出張から見えてくるもの

「起立!気をつけ!礼!」

「いらっしゃいませ!お客様! どうぞよろしくお願いします!」

教室に入ると、制服を着た20名以上の若い男女が刺すような大きな声と最敬礼で迎えてくれた。1年半ほど前に初めて訪れたカンボジアの送り出し機関が運営する日本語学校での一コマだ。

ベトナム、インドネシア、ミャンマーなど、どの国の日本語学校へ行っても判で押したように執り行われるこの儀式に最初は戸惑ったものだが、今はではすっかり慣れてきた。Webマーケティング会社の代表を16年務めていた私は、オフショア開発のパートナー探しのために、灼熱の東南アジアを一人訪れていた。日本国内で高騰するエンジニア人件費や人材不足は、我が社にとって死活問題であり、新しい仕組み作りにとにかく必死だった。芳しい結果が出ないまま、隙間時間にたまたま立ち寄っただけのこの学校から、私と「外国人技能実習」への強い関わりが始まった。 まさか、そこからこのテーマにどっぷり浸かることになり、年間で150日を東南アジア諸国で過ごすことになるとはこの時は全く想像していなかった。

自社の人材問題を入り口に、国全体の人材問題への取り組みに辿り着いてしまったというわけだ。自他ともに認める「海外アレルギー」の私が、毎月東南アジアへ足繁く通い、外国人まみれの日々を送るようになるとは、人生は本当に何が起こるかわからない。

 外国人技能実習制度は、企業や団体が、業務を通じて日本の技術や知識を伝え、開発途上国の経済発展を担う人材育成を目的としたものである。発展途上国の人たちを期間限定で受け入れ、「技能実習」を通じて技能移転を図るために1993年に国が始めたものだ。2017年11月から制度が変わり、3年間の実習を経て「優良」であることを条件に2年間の延長ができるようになった。農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属など80職種144作業で雇用することができる。しかし、その表向きの趣旨とは裏腹に、実際には日本の深刻な労働力不足を緩和するカンフル剤として機能してきたのである。

そして2017年4月から「ビルクリーニング」が技能実習(2号移行)対象職種となり、人手不足にあえぐビルメンテナンス業界においても大きな期待が寄せられている。

その一方で、外国人を雇用するという未体験ゾーンへの突入は、未だどの業界においてもハードルが高く、二の足を踏む経営者も多い。このコラムでは、次号から海の向こう側の技能実習生の実情や送り出し機関、日本語学校の実態など、「外国人技能実習」に関する現地ならではのリアルな情報をお伝えする。

掲載;2019.4.8号

【川口環(かわぐち・たまき)氏略歴】1968年1215日、愛知県生まれ。中央大学卒業後、TOTO㈱を経てWebマーケティング会社 ㈱ジェイティップスを設立。約20年間にわたり多数の大手企業Webマーケティングに関与し、グロースハックさせる。ニッチ領域のWebメディア開発を得意とし、数々のバーティカルメディアを立ち上げ。昨今は、外国人技能実習の無料相談ポータルサイト「外国人技能実習360°」プロジェクトマネージャーとして、海外送り出し機関のリサーチと受け入れ企業の相談にあたっている。年間20回以上海外出張し、約150日間を東南アジア各国で活動する。