#3 最高齢警備員の引退:エロ爺さんの愉快なエピソード

 「エロ爺さんは人格者」というサブの見出しを付けて自著で紹介したことがある85歳現役交通誘導警備員の加地矢が本年4月、ついに引退した。その契機となったのは御多分に洩れずコロナ危機で、勤務先のパチンコ店が休業を余儀なくされたからである。加地矢は4年以上、主にパチンコ店での警備を担当していたので、もう他の現場に出てまで働く気持ちはなかった。

 その上、6人の子供たちからもかねがね警備員引退を勧められていた。「世間体が悪い」「キツい仕事をする年齢ではない」「月18万円も年金があるのだから」といった理由である。

 加地矢は某テレビ局のインタビュアーから「なぜ、その年齢で働くのですか」と問われて、後日私に少々憤慨した面持ちで「決まっているじゃないですか。お金が欲しいからですよ」と語っていた。彼は酒はほとんど飲めないが、スナックでカラオケをしたり女性と会話することが好きなのだ。

 私が見るところ加地矢は健康で頭の回転も速くユーモアもある。彼は最盛期には左官職人を70人前後使い、社長として月給200万円も取っていたそうだ。それが同業者2人から頼み込まれて3億円借り入れの連帯保証人になったばかりに連鎖倒産して大きな家屋敷も失う羽目になったのである。

 加地矢が今の警備会社に入るにあたって愉快なエピソードがある。彼は当時、80歳になっていた。面接で担当者に「この会社では年齢制限はありますか?」と訊いたところ「75歳です」と返された。困った彼は、咄嗟に干支で一回り下の年齢の68歳と答えていた。

 入社後、会社からの「住民票を持ってきてください」という要請には「近いうちに…」などと適当にあしらっていた。それがとうとうバレる日が来た。入社して半年ほど経った頃、会社の社長から直接電話があった。「税務署から年金絡みの問い合わせがあったんですが、それを見るとどうも会社に届けている年齢と12歳ほど違うのですが…」と怪訝そうに尋ねてきた。もはやこれまで…と覚悟した加地矢は「すみませんでした。すぐ辞表を提出します」と申し出た。

 しかし社長は、加地矢の裏表のない真面目な勤務態度をよく知っていたので、年齢詐称は不問に付したのである。

 そんな加地矢は筋金入りの女好きである。どうやら2年前に亡くなった夫人公認だったようで、今でも付き合っている女性がいてモーテルに行ってきたなどと私に話すことはしょっちゅうだった。勤務の合間には足繁く馴染みのスナックに通っていたようだ。

 真っ昼間から「女は90歳近くになっても、アソコはビチョビチョになるんだ」などと得意気に話しかけてくるからエロ爺さんの面目躍如である。

 加地矢は7080代の女性とばかり付き合う理由を、「だって自分の子供より年下の女性と付き合うわけにはいかんでしょう」などと至極まともで、ごもっともなことを言っていた。

 だが、引退して家に閉じこもってばかりいたら急に老け込まないだろうか。余計なお世話だろうが、引退は彼にとって吉と出るか、凶と出るか心配である。