|

「行列のできるビルメン会社」なんて不可能か――。大阪・梅田のHSデパートの朝の風景を見て、そう思う。開店の一時間も前から長い行列が出来る。老舗和菓子の子会社で洋菓子専門のK社が売出したバームクーヘンを買い求める客の列である。その長い列に加わった人に聞いてみたが「格別おいしいとは思わない」と素気ない返事だった。それなのに、何故列を作ってまで求めようとするのか。
本紙の前号で、ミシュランの三星を獲得した東京のすし店「すきやばしJ」の話を書いた。昼食に2万5千円も払って、競って入店しようとする。確かに味も旨いし、店内も清掃が行き届ききれいで、雰囲気もいいのかもしれない。だけど、そんな店は他にも沢山あるはずだ。何故この店だけが。またバームクーヘンも此処だけではないだろう。つくづく思う、ブランドとは凄いものだ、と。ビルメン会社がすきやばしJや洋菓子のK社となるのは不可能なことだろうか。
「そんな話は“絵に描いた餅”で、それより“食える餅”の話しをせよ。“100円のものを120円で売る”などは現実を知らない絵空事だ。もっと現実味のある話をせよ」と親しくしている斯業経営者の人に笑われた。
過去2回に亘って本紙に、経営者の安穏な暮らしからの覚醒を期して、斯業経営を危うくする要因を二つ三つ書いた。そのキーワードは「変化」であった。その2回限りで擱筆とするつもりだったが、意に沿わない指摘を受け、また若干の舌足らずも意識して、今回もう一度、危機感の希薄さを嘆いてみようと思ったのである。
次の話は、ある行政担当者から聞いたことである。雇用促進の一環として、地域の就職困難者つまり母子家庭の母の就職先に、ビルメンの清掃業務が最適職種と考え、地域のビルメン企業への就職を勧奨したところ、一向に実効が挙がらない。彼女らの拒否理由が予想外だったと、その担当者の述懐が印象的だった。家の近くの会社なら通勤も楽だし喜ばれると思ったが「子供に肩身の狭い思いをさせたくないし、近所の人たちにもお掃除の仕事をしていることを知られたくない。遠く離れたビルメン会社ならともかく・・・」と答えたという。
この話からも察せられるように、世間には此の業をマイナーな職業だと思っている人が依然としているのだ。こういう意識の払拭こそがBIUのテーマでもあるのだが――。 つまり、ビルメン企業の社員が「自分の仕事に誇りを持ち、自分が所属する会社に誇りを持つ」という有るべき姿の浸透だ。が、今なおその道のりは遠い。このビルメン業の地位向上とか、レベルアップをして業種を確立するという問題は今から38年も前の大阪万博の頃の業界挙げてのテーマでもあった。あれから40年近くも経つというのに、今もなお同じテーマが業界に重くのしかかっている。
現在成長していると言われる企業は時代の変化に合わせて営業内容がどんどん変わっている。ある経営専門家は『3年前の商品が50%以上残っている企業は成長企業ではない』と言い切っている。ところがビルメン業界ではあまり変化が見られない。どこに原因があるのだろうか。業務の性質上変化し難いとか、顧客が変化を好まない、といった宿命論的な考え方が蔓延しているとしたら、それこそ問題だ。次代を担う若い経営者の現状打破の姿勢の希薄なのがどうしても気になる。
確かに今の若年経営者は、約40年前の経営者と比べると、社長らしくなった。大企業の社長のように、運転手付きの高級車に乗り、分不相応の立派な個室の社長室を構え、外見はそれらしくなった。その代わり創業者のような眼光鋭い面構えが消えた。40年近くその変遷を眺めてきて、そう思う。
企業は三代目で潰れるという。三代目ともなると、起業の頃の熱い思いは失せ、平穏とマンネリに馴れ、いつしか廃業の憂き目に遭うというのが世の常である。斯業がそうならないことを只管願うばかりだ。
|