
発展途上国から先進国になればなるほど、環境問題は避けて通れない問題です。ビルを清掃してきれいにすることが目的のビルメンテナンス業者が、例えば、清掃後の汚染した廃液を公共の下水道に廃棄するには法律や環境に遵守した方法で処理しなければいけません。特に、近年高まっている環境問題に関して清掃業者は、職業柄率先して改善することが要求されることでしょう。また、洗浄するのに必要な洗剤や床材の保護や美観の向上を目的としたフロアポリッシュについても、なるべく環境にやさしい商品を選定していくことが重要です。そこで、今日までの、わが国における洗剤、フロアポリッシュにおける公害問題と環境問題および毒性等、および今後の課題について検証していきましょう。
■環境問題と環境対策
1、洗剤の無リン化
界面活性剤の界面性能を高め洗浄力を向上させる助剤としてビルダーが挙げられる。特に、多種類あるビルダーの中でも、安価で人体に対する安全性が高く、且つ洗浄力に優れたビルダーとしては縮合リン酸塩が挙げられる。しかし、縮合リン酸塩中のリンは、窒素、カリウムと共に植物の三大栄養素の一つである。洗浄後の洗剤廃液が河川や湖沼に流れ込んだ場合、河川や湖沼中のリンが異常に多くなり、藻の栄養素として働き、藻が異常繁殖する。異常繁殖した藻類は、やがて枯死し、腐敗して悪臭を放つばかりでなく美観をそこねる。また、酸素の欠乏をきたして水質汚濁をもたらし、水棲生物に悪影響を与え、水利、その他の水利用を妨げる。特に、一級河川、湖水を有する各都道府県では、有リン洗剤を締め出し公害問題を起こさせないため、各都道府県毎に条例を制定した。滋賀県では、1980年に琵琶湖条例が施行され、有リン洗剤の販売、贈答、使用を禁止し、また翌年茨城県でも霞ヶ浦条例が同様に施行された。また、洗剤・洗浄剤の表示方法に関し、旧通産省が有リン洗剤中のリン含有量を消費者に知らせる方法としてP2O5量で表示する法律を制定した。
弊社は、洗剤メーカーの責任として、業界のトップをきって1975年に無リン洗剤の開発に成功。特に、洗剤として最も重要な洗浄力に起因する縮合リン酸塩を使用しなくとも、数種類の有機ビルダーの複合化による相乗効果により難問を解決して、洗剤及び洗浄剤の全商品の無リン化を達成した。
2、環境ホルモン物質の排除
環境ホルモンは、残留性塩素化合物等に代表される合成化合物のなかに生体ホルモンと類似の作用をするものがあり、野生生物や人間の内分泌(ホルモン)作用を攪乱するため、野生生物に起こっている影響が人間にも及んでいるとの説を掲げている問題である。欧米では、同一の問題を内分泌攪乱物質(エンドクリン問題)と称している。環境ホルモンを引き起こすと疑われている物質には、数十種類あるが、この中で洗剤やフロアポリッシュ中に含有している物質としてはアルキルフェノールエトキシレートが挙げられる。このアルキルフェノールエトキシレートは、洗剤原料やフロアポリッシュの乳化、分散剤として多量に使用されている。現在、日本フロアポリッシュ工業会では、2000年から会員各社に呼びかけて洗剤・洗浄剤およびフロアポリッシュに含有している内分泌攪乱物質として疑わしき成分を排除することを行っている。弊社は、業界に先駆け1991年、洗剤・フロアポリッシュの製品から環境ホルモンとして疑いのある物質のすべてを排除した。
3、事業場排水の水質規制およびフロアポリッシュ廃液の分析結果
フロアポリッシュ皮膜の除去廃液を公共下水道に排水するには、都道府県条例、市町村例によって下水道排除基準が決められている。この基準値は、各都道府県、市町村の下水道の普及率、下水処理場の処理能力などで条例が異なっているので地元の都道府県、市町村の下水道局に問い合わせして確認して頂きたい。一例として、東京都下水道排除基準を表―1に示す。
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| 表1 (拡大表は103K) |
4、フロアポリッシュ除去廃液の問題点
汚染したフロアポリッシュ皮膜の除去廃液を公共下水道に捨てるには、多くの環境問題を抱えている。実際に床に塗布した汎用フロアポリッシュを汎用フロアポリッシュ用除去剤で除去した廃液の分析を行ったので表―2に示す。さらに、重金属の亜鉛を含まない環境にやさしいカルシウム架橋を採用したフロアポリッシュを環境対応型除去剤で除去して、さらに専用処理剤で処理した後の分析を行ったので表―3に示す。
この結果、汎用フロアポリッシュ、汎用除去剤で処理した廃液は、都道府県条例または市町村条例で制定された下水道排除基準・環境項目等中の亜鉛、生物化学的酸素要求量(BOD)、浮遊物質量(SS)、ノルマルヘキサン抽出物質、全窒素、水素イオン濃度(pH)に関しては基準値を大幅に超えている。これに対し、カルシウム架橋型フロアポリッシュ、環境対応型除去剤、専用処理剤で処理した廃液は、表―2の東京都における下水道排除基準値を全ての項目においてクリアーしていおり、公共下水道に排水することができる。下記に各項目を詳細に説明する。
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(1)亜鉛
下水処理場における生物処理の機能を低下させる。下水処理場で発生した汚泥の処理、処分を困難にする。
(2)生物化学的酸素要求量(BOD)
下水道に流した廃液のBOD値が高濃度になると下水処理場の処理機能が低下する。BODとは、水中の好気性微生物によって消費される溶存酸素量である。
(3)浮遊物質量(SS)
下水道に流した廃液のSS値が高くなると下水管内の清掃回数を増加させる。また、下水管をつまらせます。浮遊物質とは水中に浮遊する1μm〜2mmの粒子で、水に濁りや色を与える原因になる。
(4)ノルマルヘキサン抽出物質
下水道に流した廃液のノルマルヘキサン抽出物質量が多くなると下水管をつまらせ、火災の危険も生じる。ノルマルヘキサン抽出物質とは、除去廃液を微酸性とし、ヘキサン(nーヘキサン)抽出を行った後、約80℃でヘキサンを揮散されたときに残留する物質量をいう。
(5)全窒素
下水道に流した廃液の窒素量が高濃度になると下水処理場の処理機能が低下する。
(6)水素イオン濃度(pH)
下水道に流した廃液のpH値が規制範囲内でないと下水管を壊す。他の排水と混合すると有毒ガスが発生することがある。
5、架橋剤(亜鉛)の必要性と環境に与える影響
金属架橋型フロアポリッシュ皮膜は、強靱の物性を呈すると共に、耐洗剤性および耐摩耗性などの性能を高める。また、化学的な除去が必要なときは、アンモニアまたはエタノールアミンなどのアミン類に界面活性剤を含有させた除去剤で汚染した皮膜を取り除く。フロアポリッシュの性能を左右する重要な架橋剤は、一般に重金属の亜鉛が使用される。しかし、亜鉛を含有した除去廃液を公共下水道に排水するには、都道府県条例、市町村条例により、流せる規制量が法律により定められている。例えば、宮城県仙台市、埼玉県浦和市、東京都、大阪府、大阪市、福岡県福岡市などでは、亜鉛の流せる規制量は5PPM以下に定められている。特に厳しい神奈川県横浜市は3PPM以下と定められている。亜鉛を含んだ廃液を公共下水道に流すと、廃液は下水処理場に流れる。下水処理場では、有機物は活性汚泥中の微生物により分解されるが、しかし、有機物と一緒に流れ込んだ亜鉛が存在すると微生物の活性能を低下させ、下水処理場の処理能力が低下する。また、活性能力の低下した活性汚泥は、植物、農作物の肥料としてリサイクルされる。しかし、亜鉛は、植物、農作物の発育を抑制する作用がある。亜鉛を含んだ活性汚泥は植物、農作物の肥料として使用することができなくなる。
6、亜鉛架橋型フロアポリッシュ用除去剤の環境への影響
亜鉛架橋型フロアポリッシュの架橋を外すには、アンモニアまたはエタノールアミンが1%以上必要である。この中の、アンモニアやエタノールアミンは、窒素化合物である。下水道排除基準・環境項目等中には、窒素量の規制値が各都道府県条例、市町村条例によって決められている。亜鉛架橋型フロアポリッシュを除去するには、窒素量の規制値をはるかに超えるアンモニア、エタノールアミンを含有しないと簡単に除去することができない。
7、亜鉛架橋型フロアポリッシュから環境対応型架橋剤の開発
重金属の亜鉛架橋型フロアポリッシュは、環境に対する問題から、すでに一部のヨーロッパの地域では使用が禁止されていると言われている。
弊社は、1980年代後半から重金属に替わる架橋剤の開発に着手、1990年代はじめに、環境にやさしいカルシウムを架橋剤としたフロアポリッシュの開発に成功した。また、カルシウム架橋に使用されるカルシウム化合物は、環境にやさしく、世界的に資源が豊富で、人間に対する安全性が高いことも大きな要素である。さらに、床に塗布したフロアポリッシュ皮膜は、数カ月または数年間経過すると、皮膜内部まで汚染され見栄えがわるくなり化学的な除去が必要になる。亜鉛架橋型フロアポリッシュ皮膜を除去するには、必須成分としてアンモニアやエタノールアミンなどの窒素化合物を使用する。しかし、カルシウム架橋型フロアポリッシュの場合は、アンモニアやエタノールアミンなどを使用しなくとも簡単に除去することができる。その他、臭気における環境改善としてフロアポリッシュ中のアンモニア量が少ない量で製品化できることも大きな特長である。
8、PRTR法
有害性がある化学物質がどこから、どれだけ環境中に排出されているかを把握する取組みとしてPRTR法がある。この法律は1992年の地球サミットで取り上げられOECDではPRTR法に取り組むよう勧告している。すでに、イギリス、オランダ、オーストリア、アメリカ、カナダでは自国に合ったPRTR法が法制化されている。わが国でも1997年から環境庁が取り上げてすでに実施している。
PRTR法の対象物質の中には洗剤やフロアポリッシュに使われている物質がある。特に、汎用的に使われている原料として
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンジアミン―4酢酸などが環境に
悪影響のある物質として第一種特定化学物質として登録されている。その他、第一種特定化学物質には、351品種の物質が登
録され、この物質を製品中に1%以上使用したときは届け出が必要となる。しかし、ビルメンテナンス清掃業は、第一種指定化
学物質等取扱事業者に含まれていないため対象外である。環境に対し影響のある物質を少しでも無くすためには、幾ら清掃業が
対象外と言えども特定化学物質の削除または削減を行わなければいけない。また、洗剤、フロアポリッシュメーカーも環境に考
慮した製品の開発を行うことが急務である。
弊社は、フロアポリッシュにおいては、2000年度中に全ての商品に対し
てPRTR法に抵触しない商品を開発。また、洗剤に関しては、性能、価格を考慮して完成しだい随時商品化を行っている。
9、シックハウス症候群
シックハウス症候群は、室内の建材や家具などに使われている接着剤、防腐剤、コーティング材などの材料 から大気中に放出される化学物質汚染が原因で起こる。症状は、眼の痛み、吐き気、頭痛、アトピー性皮膚炎、身体疲労、スト レス、情緒不安定などである。このような症状が、ビルや学校などで発生するとシックビル症候群、シックスクール症候群など と呼ばれる。わが国でも、新築病と言われるようになり、室内環境、特に揮発性化学物質、ダスト、炭酸ガスなどが調査される ようになった。厚生労働省は、住宅建材などに含まれる化学物質が原因とされるシックハウス症候群について、医師や建築の専 門家による予防、治療方法の確立、安全な建材の開発支援を柱としたシックハウス問題に関する検討会で、室内空気汚染に係わ るガイドラインについて審議され、室内濃度に関する指針値が決められている。この指針値は、人がその化学物質の示された濃 度以下の暴露を一生涯受けたとしても、健康への有害な影響を受けないであろうとの判断により設定された値である。表−4に 揮発性有機化合物14物質と毒性指標および室内濃度指針値を示す。また、複数のVOC混合物の濃度レベルは、総揮発性有機 化合物(TVOC)で示す。空気質のTVOC暫定目標値は、400μg/m³に設定されたが、しかしこの値は、毒性学 的知見から決定したもいのでないことから、個別のVOC指針値とは独立に扱わなければいけない。特に、建材などに含まれる 化学物質の室内汚染で、合板や壁紙の接着剤、フロアポリッシュの防腐剤などに使われているホルマリンとシロアリ駆除剤とし て使われているクロルピリホスオフィスの2種類の使用を禁止、制限する建築基準法、都市計画法が法規制された。現在、日本 フロアポリッシュ工業会は、会員各社に呼びかけてフロアポリッシュに含有しているホルマリンの排除を行っている。また、ビ ル、デパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストアー、空港などの床や一般家庭の床に使用されている水性フロアポリ ッシュは、組成中に70〜80%の割合で、金属架橋型スチレンーアクリル樹脂を使用している。このポリマー中に残存するス チレンモノマーは、シックハウス症候群登録成分として規制値が決められている。ポリッシュを製造しているメーカーの責任で スチレンモノマー量を基準値以下にしなければいけない。
| 室内濃度指針地(表−4) | |||
| 揮発性有機化合物 | 毒性指標 | 室内濃度指 針値 | 設定 日 |
| ホルムアルデヒド | 人吸入暴露における咽喉頭粘膜への 刺激 | 100μg/m³ (0.08ppm) | 1997. 6.13 |
| トルエン | 人吸入暴露における神経行動機能及 び生殖発生への影響 | 260μg/m³ (0.07ppm) | 2000. 6.26 |
| キシレン | 妊娠ラット吸入暴露における出生児 の中枢神経系発達への影響 | 870μg/m³ (0.208ppm) | 2000.6.26 |
| バラジクロロベンゼン | ビーグル犬経口暴露における肝臓及 び腎臓等への影響 | 240μg/m³ (0.04ppm) | 2000. 6.26 |
| エチルベンゼン | マウス及びラット吸入暴露における 肝臓及び腎臓等への影響 | 3800μg/m³ (0.88ppm) | 2000. 12.15 |
| スチレン | ラット吸入暴露における脳や肝臓へ の影響 | 220μg/m³ (0.05ppm) | 2000.12.15 |
| クロルピリホス | 母ラッド経口暴露における新生児の 神経発達への影響 及び新生児脳への 形態学的影響 |
1μg/m³(0.07ppm) 但 し、小児の場合 は 0.1μg/m³(0.007ppm) |
2000. 12.15 |
| フクル酸−n−プチル | 母ラッド経口暴露における新生児の 生殖器の構造異常等の影響 | 220μg/m³ (0.02ppm) | 2000. 12.15 |
| テトラデカン | C8−C16混合物のラット経口暴 露における肝臓への影響 | 330μg/m³ (0.04ppm) | 2001. 7.5 |
| フタル酸ジ−2− エチルへキシル |
ラット経口暴落における精巣への病理組織学的影響 | 120μg/m³ (7.6ppb) | 2001.7.5 |
| ダイアジノン | ラット経口暴露における血漿及び 赤血球コリンエステラーゼ活性への影 響 |
0.29μg/m³ (0.02ppm) | 2001. 7.5 |
| アセトアルデヒド | ラットの経気道暴露における鼻腔臭 覚上皮への影響 | 48μg/m³ (0.03ppm) | 2002.1.22 |
| フェノブカルブ | ラット経口暴露におけるコリンエス テラーゼ活性などへの影響 | 33μg/m³ (3.8ppb) | 2002.1.22 |
| 総揮発性有機化合物量 (TVCO) |
国内の室内VOC実態調査の結果から、 合理的に達成可能な限り低い範 囲で決定 |
暫定目標値400μg/m³ | 2000.12.15 |
| 継続して検討が必要な物質 | ||
| 揮発性有機化合物 | 毒性指標 | 室内濃度指針値案 |
| イナナール | C8−C12混合物のラット経口暴露にお ける毒性学的影響 | 41μg/m³(7.Oppb)(情報が乏し いことから暫牢値) |
| C8−C16脂肪族飽和炭化 水素 | 検討継続 | |
| C8−C12脂肪族飽和アルデヒ ド | 検討継続 | |