BM技術講座

木村光成(木村ブラシ代表)

ビルメンテナンス側から見た新丸ノ内ビルの評価


1、ビルメンの視点から見た注意点
 4月に東京駅前の一等地に新丸ノ内ビルがオープンした。筆者の記憶では終戦時、新丸の内は四角形の大きな池であった。そこに1950年にビルが建つ話が起き、水を干す工事がおこなわれ、池の中に岩崎家が金塊を沈めたとの噂が新聞だねになった。

 今はなき三菱重工ビルでは、最近まで岩崎家の子孫がビルメン会社を経営して、昔の話をよく聞かされた。この数年、六本木ヒルズ、丸ビル、東京ミッドタウン、新丸ビルと再開発の流れを見てきた。これらのビルでは森ビル、三井不動産、三菱地所の激烈な競争と自己主張が見られる。

 さて、六本木ヒルズ、丸ビル、東京ミッドタウンの流れの中で共通するものは使っている建築材質の低価格と目新しさ、グリーン購入法に代表される省エネルギーである。その解決策は中国花崗岩、スレートなどのバーナー仕上げ、割り肌に代表される低価格材料の採用である。しかし今回の新丸ビルはこの地域のランドマークであり、この流れから一線を画している。

 まず、ビルの顔であるテーマ石材は今までの物件は全て中国産花崗岩であったが、新丸ビルの床面は大理石と花崗岩の磨き仕上げで、しかもモザイクである。これは横浜ランドマーク以来である。壁面も磨きの大理石で色調は床面に使用されているマロンエンペラドールに代表される。(写真2

写真2 写真3


 また、新丸ビルでもフローリングが重要な役割を閉めている。写真3はフローリングと割り肌スレートのくみあわせで、この石種に含まれる滑石の絹光沢を利用してスレートの持つ安物感を高級感に変えている。フローリングもチークに近い高級品であろう。ただしフローリングの施工法は2種類見られ、耐洗剤性は現場テストが必要である。また大理石マロンエンペラドールは割れ易く裏面からガラス繊維による補強がされている場合が多いがこの場合はどのような状態かは、見ただけでは分からない。特に床洗浄機の選択には注意を要する。 横浜ランドマークでもクレームが多発した。今回はこの花崗岩との組み合わせによるモザイクはデーター事例が無くクレームが心配される。

 カーぺットはハイロウループのグラフィックカーぺットである。外見ではミリケン社の製品が多いように感じる。そして壁際はフローリングを使用している。(写真4) 次の特徴は中敷かーぺットである。これは家庭のフローリング、中敷、のスタイルの導入であり、より一層の高級感を演出したのであろう。当然カーぺットは段通を想定している。(写真5

写真4 写真5


 この形式ははじめての試みであろう。共用部門への中敷形式の導入はメンテナンス面でも対応が必要になる。短い期間データをまとめ対応策を講じるには現場で出来る、石材、カーぺット、フローリングの判別法が必要になる。

 今後、デザイン優先、低価格ということは要注意素材の増加につながる。レーザー加工カーぺット、おき敷きビニールタイル、機能ガラス、ウインドウフィルム、フロアフイルムなど、次々に問題が起きる可能性を秘めた素材が出ている。メーカーは対応を必ずしも考えているとはいえない。クレームはまずビルメン現場に来る。今までのように対応を避けていられない。


2、デザイン優先の問題点
 デザイン優先ということはビルメン現場にとってはマイナス要素が強い。目立つということは汚れがつきやすいということにもつながる。そして低価格となればなおさらである。

 今月、神奈川県小田原市でデザインを起因とする問題が起きた。小田原市市民ホールのデザイン設計を公募で行い1位に入選したデザインに関し、市民から使い勝手が悪いとの反対の声がおきたのだ。いわゆるデザイン弊害である。このようにデザインが進むと使えない建物が増えるとの声もある。

 デザイナーがデザインを追及するあまり、出入り口のないビルを造り、その斬新さを主張したとの笑い話もある。そんなデザイナーがメンナンス性などを考えるはずは無く、その結果、メンテナンス不能事例がかなり見受けられる。例えば、すぐに改修された品川駅トイレ、3年で交換した東京フォーラムのカーぺットなどであり、東京都庁の雨漏りの原因もデザイン重視にあるといわれている。


3、石材メンテナンスの社会的意義
 新しいビルの顔は1階コンコースである。そこにはほとんど石材が使用されている。石材はビルの顔である。そして、それらの天然石材も限りある資源である。現在、使われているもののなかには、失われた天然石材も多い。古いビルの石材はほとんど最入手できないものだ。この点は現場としては残念である。出来るだけ長期間使用したいものである。石材メンテナンスはよれや、つやなど外見のきれいさを維持する以外にも大きな社会的意義がある。石材メンテナンスは特に目に見えない社会的意義が大きい点が特徴である。

 この点いついてビルメンテナンス協会のテキスト「石材メンテナンス」に記載したが、これをを書くと掃除がうるさくなるという編集委員の反対で削除されている。客観的きれいさの基準作成とともにビルメンの社会的意義を広く知らせることが必要な社会情勢になっている。石材メンテナンスは今話題の地球温暖化に関係する。

 大気中の炭酸ガスの量が増えるのが地球の温暖化の原因である。この量を規制したのが京都議定書であり、アメリカと中国はこれに署名していない。炭酸ガスの量が増える原因は石油や石炭などの化石燃料を使用すると炭酸ガスが増加する。石油や石炭は炭酸ガスを固定化している。石油や石炭を使うことはこの固定化された炭酸ガスを解放すことに他ならない。そこで炭酸ガスの増えない素材を使うことを推奨する法律がグリーン購入法である。

 ところで炭酸ガスを固定している物質はなんであろうか。それは石灰岩(ライムストーン)、大理石である。石灰岩も石油や石炭と同じに生物が作り出した生物起源の石材である。
 石灰岩には大型化石が含まれているが、石全体が生物の化石である。有孔虫という顕微鏡で見える化石の塊である。海に住む有孔虫は貝殻を持っている。有孔虫は炭酸ガスを吸収して炭酸カルシウムの貝殻を作る。それが死んで堆積したものが石灰岩で何千メートルもの地層を作る。その時代の地層の隆起で現在、山になっている。有孔虫が生息できる海は暖かく深さ3000メートル以下の浅い海で、これより深いと固定された炭酸ガスが元に戻ってしまうため石灰岩はできない。それより深い海にはガラス質の殻(珪酸)を持つ珪藻が堆積する。これが今テレビで流行の珪藻土である。

 石灰岩の最も大きな使い道はセメントである。このように考えるとビルの大部分は石灰岩で出来ているということになる。そして石灰岩は酸に弱く炭酸ガスを出して溶ける。60年代に酸性雨が問題になったとき、セメントや石灰岩は多くの損傷を受けた。言い換えると多くのビルが損傷を受けたということになる。


 左上の写真は、酸性雨で溶けたセメントが鍾乳石になった例で、柱の写真は大理石の柱が酸性雨で侵され石膏に変わった事例。
 右の写真は大理石の中の大型化石で、ライムストーンと比較してはるかに少ない(三越本店)

  少しでも長くビルを言いかえれば石灰岩(ライムストーン)、大理石、セメントの寿命を伸ばす石材メンテナンスの仕事は、地球温暖化を直接防止している。ぜひ指導講師の先生方にライムストーンを酢で溶かし簡単な顕微鏡で有孔虫を観察していただきたい。少しでもビルメンの社会的意義を実感してもらいたい。

 また、地球温暖化に直接関係の無い花崗岩もメンテナンスにより寿命が延びる。バブル時には世界中の高価な石材が集められた。これについて世界中から集められた石たちという題で設備と管理1995年12月号に発表してある。炭酸ガスを含まない石材も研磨や加工に電気やガソリンを消費する。少しでも使用期間を延ばせばそれだけ地球温暖化防止に貢献する。このようなビルメンテナスの社会貢献を口頭だけでなく裏づけデータをつけて堂々と主張する必要がある。

 ゼネコンの旗印「落成式は起工式」というスクラップ&ビルドの時代はもう今後はありえない。


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