BM技術講座

木村光成(木村ブラシ代表)


サーズ(SARS)問題をビルメン現場から考える

 新型肺炎、重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)がようやく下火になった。しかし、状況はなにも変わらない。サーズに対する抗生物質もないため、いつ再発してもおかしくない状況にある。
 ビルメンテナンス協会や関連団体の対応は、事務的に厚生労働省のホームページを引用して紹介しただけで、業界紙も本紙をはじめ、数社が社説や記事の紹介だけである。しかし、観光で関西地域を訪れた台湾人医師が感染者とわかり、医師が訪問した施設で実際にサーズと戦ったのはビルメン現場の人たちだった。
 消毒剤の散布、大阪城天守閣の望遠鏡のふきあげ消毒などがテレビで放映された。この問題について、多くの現場の人々と意見を交換したが、現場の声はほとんど取り上げられていない。以下、現場の声や疑問をまとめてみた。
 現場のクリーンクルー(清掃員)の心配は、トイレ清掃とサーズ感染の危険についてである。サーズに限らず、すべての感染症の危険性が高いのはトイレ清掃でないだろうか。病院の場合は、感染に対して知識や設備(特に作業衣の滅菌設備)があり、消毒薬も常備されているが、通常の現場にはそうした設備が無いため、かえって危険性が大きいという声があった。外国の事例では感染症の危険性が高いのは医師、看護師に次いでクリーンクルーである。
 もし現場のクリーンクルーからサーズ感染者が出たら、厚生労働省や関連協会が慌てふためくだろう。そして所属していたビルメン会社の名前が知れわたり、対応策の不備をなじられるという結末である。
 その場合、労災が適用されるのだろうか?という質問が現場から出たが、だれも答えられなかった。そして、この点だけでも関係者に問いかけておく必要があると感じた。
 意見交換をした8現場の各本社からは、現場に対してサーズ対策の具体的な指示はほとんどなかったが、ISO14000の関係から消毒薬の残りを下水に棄てる場合、浄化槽に入れてある分解バクテリアを殺さないように注意する指示が一例あった。これには現場からバクテリアの命と我々クリーンクルーの命とどちらが大切かという声があがっていた。
 ともあれ、トイレ清掃は菌感染の危険が大きい作業であることは間違いない。筆者が30年間関係した新 幹線のトイレ清掃は
@使用者が不特定
A洗浄水の量が限られる
B使用頻度が高い
C清掃時間が分単位、という過酷な 条件下にある。
 そのうえトイレの形が一定ではなく、どの形もビルと異なり完全清掃がやりずらい構造である。ひかりの男子トイレでは一部分で完全清掃が不可能な構造になっている。初期の便器ではプレスしたままのステンレス便器の角で手を切る事故もあった。これらはほとんど表面に出ていない。
 また、国鉄時代のトイレの特殊な清掃法、閉鎖法や滴下法などの技法や駅舎清掃の定番だったオガくず清掃の手順マニュアルなども失われつつある。これらの技法だけでも本紙に残しておくつもりである。

構造上清掃の難易度が高い。

 さて、サーズが再発する可能性が高いことはインフルエンザの例をみてもわかる。サーズ発生時の消毒薬や作業方法は業界紙に発表されている。しかし、現場のクリーンクルーが感染する危険について述べているものはほとんどない。
 現場の人たちは、トイレ協会などがクリーンクルーの感染防止の指針を示してくれると期待していたが、サーズに関する現場の危険性は話題にもならなかった。そこで現場の声や提案を表記してみる。ISO関係者やトイレ協会などの関係者にぜひ一考願えれば幸いである。ぜひとも自然に対するやさしさや使用者への気遣いの一部を現場に向けていただきたい。
対応は
@サーズなどの発生時
A通常の感染対策
B控え室の対策
C資材置き場の対策
以上の場合を念頭に置いた。
 清潔志向の高まりをうけてビルメン業界にも除菌効果を売り物にした商品が溢れている。除菌洗剤はもとより除菌ワックス、除菌塗料、除菌効果があるといわれる電解水や波動水などがある。 しかし、細菌別に効果が確認されているものは少ない。大手洗剤メーカーの製品でも、除菌効果の少ない商品がある。
 このため厚生労働省指定の消毒剤を使用するのが間違いないだろう。また、弗酸系洗剤がビルメン業界に流行している。鉄錆、コーヒー、石材などに効果がある半面、使用上の説明が不十分で劇物表示のみの洗剤も多い。これらは皮膚から入り徐々に骨を冒す性質があるので、使用に当たり十分な注意が必要である。
 なお現場のクリーンクルーの菌感染、洗剤の皮膚障害などは転落死亡事故などと比べて目立たないが、こうした労災防止について下請け関係を含めて対応しようと研究中のビルメン業者が出てきたことは歓迎すべき事である。
 いずれにしても現場の最大の関心事である、万一現場からサーズ感染が起きた場合の労災扱いについて研究することが急務ではないか。

現場における感染対策(例)
緊急時対策 内 容
1 現場における感染対策マニュアル 感染症の情報、具体的対応法。
薬品使用法
2 現場消毒薬 次亜鉛素酸ナトリウム
3 資機材消毒薬 次亜鉛素酸ナトリウム
4 手足消毒薬 逆性石鹸、エチルアルコール
5 感染予防 マスク、手袋、防護服

日常時対策 内 容
1 日常感染マニュアル 通常時の注意点、薬品の使用法など
2 手足消毒 逆性石鹸
3 うがい用薬品 イソジン
4 作業衣、靴、休憩室、
資材置き場の除菌
殺菌灯、イオン発生器

注1) 消毒薬は分解、蒸発するものが多い。サーズ発生などの緊急時にはすぐ手配できるようにしておく。
注2) 日常使うものは、応用が利き、使いやすい薬品を選ぶ
注3) 最大の問題は作業衣などの除菌である。現在では殺菌灯やオゾン発生機しかない。大型のものはかなり高価であり、現場持ち回りで行うしかない。カタログ性能に頼らず落下細菌などを測定して効果を確認する必要もある。
現在、作業衣の除菌設備は病院以外にはない。
写真は、オゾン発生機である。方法としては作業衣を大型ロッカーに入れ、除菌後は室内空気を入れ替える。
または殺菌灯のロッカー内への設置などの案が出た。

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