BM技術講座

木村光成(木村ブラシ代表)

病院における染み抜き技術の必要性


 清掃業務では特殊な技術を要求される現場がある。そのひとつが病院や擁護施設の染み抜き技術である。その理由は特殊な汚れの存在である。
 医療には多くの薬品が使われる、例えば喉に吹き付ける赤紫のイソジン、殺菌剤の銀や水銀化合物、検査用の染料、そして最も多く使われるアルコールなどがある。アルコールは床用ワックスを溶かし、まだらになるためビルメン現場はよく知っている。
 これらの薬品がビニールタイル、カーペット、タイル目地、石材、フローリングなどの床や天井、壁面などのボード面、壁紙、手すり、ブラインドなどの金属に付着して特殊汚れを形成する。その薬品、染料、溶剤は50種類を超える。
 これらは市販の洗剤、しみぬき剤では落とせない。そのうえ病院や擁護施設は、清潔感を印象付けるため内装は明色系を使い、白物が多い。事務所ビルでは汚れが目立たない色のカーペットが使われているが、病院などは、通常の色調ではわからない染み抜き後の黄色でも目立つため、2次処理、3時処理が必要になる。このため、お茶、コーヒー、コーラなどの染み抜きにビルメンテナンス業者が使わないジメチルフォルムアミドが多用されるのはこの理由である。
 これらの汚れを落とすには市販洗剤では無理である。もちろん作業の基本とされている、協会がまとめたテキストに書いてある専用洗剤で落とすことも無理である。なぜならば、こうした汚れを落とすための専用洗剤は、少量多品種で採算に合わず使い方も難しいからだ。例えば汚れの度合いに応じて、濃度をうすくしたり、濃くするなどの使い分けが要求される。
 そこで、病院や養護施設の特殊汚れを落とすためには、@単品薬品の知識A対象素材の見分け方の知識B使用清掃用具の知識――という3つの知識が必要になる。

@簡単に言えばしみぬき剤の作り方である。薬品を組み合わせて目的にあったしみぬき剤を作ること。これらの薬品を単品薬品と呼んでいる。古くからクリーニング業界で行われていた技法である。単品薬品は試薬や工業薬品であるため薬品名、濃度、純度などが日本薬局法で明示されている。ビルメン業界の洗剤と異なり、濃度や内容があいまいであることはない。このため正確な組み合わせや濃度調整ができる。

A汚れが付いている品物の見分け方である。例えばカーペットであればナイロンなど、シーツであれば綿という素材の見分けである。その品物を傷つけては意味がない。そのぎりぎりの限界で作業することになる。

B次に清掃用具の材質である。ブラシの硬さや種類を知らないと素材を傷つけ、単品薬品でブラシが溶けることもある。そして、すすぎ用のリンサーや汚れを除くバキュームの知識である。

 こうした見分け方の参考として、過去に行われた研究の復活を提案したい。病院や養護施設の汚れに関する単品薬品のデーターは、クリーニング総研の林先生が1年近くをかけ、病院のクリーニング施設を担当する方のために、ある程度まとめた資料があった。使用素材と汚れの原因になる薬品類と、それらを除去する単品薬品の組み合わせ表を作成していた。
 この研究のために病院の薬品を集め、繊維に付着させて、それを取り去る実験を行っていたことを知っている。私もビニールタイルや石材についての実験を要請されたが、当時は時間がなく参加できなかった。
 まだ、未完成のデーターだったが、ビルメンテナンス関係者や清掃員会、(財)ビル管理教育センター、ハウスクリーニング協会などに配布された。しかし、当時このような難しい染み抜き法が広まっても、仕事の対価がもらえず、ただ働きが増えるという理由でこれらの資料は廃棄されてしまった。
 しかし、最近になって病院や養護施設の現場責任者からの染み抜きに関する質問が増えている。以前と異なり病院や養護施設のデザインが新しくなり、汚れやしみの除去の要請が増えていると思われる。そこで林先生の資料をお持ちの指導講師の方がおられれば是非公開していただきたいことをお願いしたい。


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