BM技術講座
木村光成(木村ブラシ代表)
ビルメン基礎研究の歴史2 (03年を乗り切るために)
洗剤と染み抜きの権威 クリーニング総合研究所の林喬先生
1、厚生科学研究でのカーペット残留洗剤の研究
カーぺットメンテナンスに関係する厚生科学研究の時に、カーぺットの残留洗剤の研究を担当されたのがクリーニング総合研究所の林喬先生であった。当時は三井商事のミラサム、住友商事のワッカムなど、タフトカーぺット時代であり、リンサーもタイルカーぺットも登場前である。
その当時、カーぺットの残留洗剤に対する考えは、洗剤が粉末化するためバキュームで回収。それでも、まだ残る洗剤は汚れ防止や静電気防止の働きをするという考え方で、リンサーによるすすぎの考えはなかった(当時のカーぺットは、リンサーによる縮み事故が多発したため使用できない状態。リンサーの普及は縮みの起きないタイルカーぺットの普及以後になる)。したがって洗剤は残したほうが良い、すすぎはしないほうが良いという考えであった。しかし、本音は1工程不要になることである。
この考えは現在でも洗剤メーカーの発泡洗剤の中に残っている。だからパウダークリーニングでパウダーを残すことを奨めている。洗剤を残せば静電気防止と汚れ防止になるという理論である。しかし、木粉は好乾性カビの温床になる。ノンリンスという用語もおそらく、これらの考え方から出ているだろう。
当時は今日ほど洗剤が健康と環境に影響を与えるとは考えられなかった。もちろんこの裏には、外国のカーぺットメーカーの販売作戦理論が存在した。その後のダニ騒動,ハウスダスト問題が出始めて、すすぎの重要性を肌で感じたのが実情である。
しかし、林先生は立場上、この問題を予測されていた。肌に直接ふれる衣料の場合に起きるかぶれの問題に取り組まれていたからである。こうした研究から20年後、改正ビル衛生管理法で残留洗剤の除去が明文化された。今後、ビルメンテナンスはもとより、ハウスクリーニングでは健康問題が特に厳しくなる。カーぺットのみならず、ハード床の残留洗剤についても問題化しないとは限らない。
こうした状況を考えると、林先生の研究である、カーぺットクリーニングにおける残留洗剤除去に関する報告書はビルメン関係者が一読すべき資料である。
そこで報告書の要点を記す
@カーぺットはすべて分解し、パイル繊維と基布に分けて残留洗剤を測定した。
A性能低下のないリ ンサー(真空度2000水柱、ミリ。風量2.3m³、吸い口幅200ミリ)の条件で清水によるすすぎを行えば、カー
ぺット繊維で89%、基布で50%の洗剤が除去できる。
B洗剤により大きな差が生じる。金属石鹸の生成が起きると ほとんど除去できない。
この報告書は公的なものであり、これにより改正ビル衛生管理法、その他の基準、残留洗剤は十分な対応ができる。
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| パイル繊維と基布に分ける | エプトン法で洗剤を定量に |
2、染色堅牢度試験法の改良
次に先生が取り組まれたのはカーぺットの染色堅牢度の問題である。
協会関係ではほとんど無関心であるが、染めの悪いカーぺットがかなり多い。
本紙、技術講座14に掲載してある色落ち例は1つの大型ビルからも、
これだけの色落ちの可能性があることを示している。色落ちはアルカリ洗剤で温度が高いほど危険が多い。
また、タイルカーペットではほとんどがナイロン6で酸に弱い。トイレ洗剤で損傷をうける。なかには配布サンプルが色落ちする製品まである。
これらはすべて現場の責任になっている。
そこで先生は、カーぺットの色落ちクレーム防止のために染色堅牢度試験法の改良に取り組まれた。
染色堅牢度試験はJISで規定されているが、試験方法が煩雑で機材が高価であり、より簡単な試験方法が求められていた。
我々も試験機の試作研究に協力した。しかし、学術審議会でカーぺットメーカーの引き伸ばしにあっていた。
そこでビルメン業界のバックアップがあれば、色落ちクレームおよび染み抜きなど、メンテナンス全体に有利な状態が得られていた。
しかし、ビルメン業界はカーぺットメーカー側にたっていた。
このときビルメンやビルメン関連洗剤メーカーの協力があれば、
カーペットメンテナンスに関してはカーぺットメーカー、ゼネコン、ビルオーナーに対してクレーム面でも、受注価格面でも今より有利になっていたと思われる。
また、このときビルメン業界に対しクレーム責任範囲の線引きとカーぺットメンテナンスの賠償責任基準の作成を提案された。
これは損害保険業界にも提案し、保険業界側のみの判定基準を業界側の立場も折込み、ビルメン側の保険料負担を軽減する目的があった。
今後、増大するPL法制定によるハウスクリーニングやリフォーム関連のクレームに対応する必要を感じていたからである。
それに対する20年間のクレーム蓄積事例を武器にすることを考えられていた。しかしビルメン側の取り組みはなくそのままになっている。
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| 染色堅牢度試験法の改良 | タイルカーペットでも色の多いほど色落ちの危険が多い |
3、カーペット内部の汚れ研究
カーぺット内部の汚れは、表面から見える汚れよりはるかに多い。これを無視することの危険性を先生は早くから指摘されていた。内部の汚れは、遅かれ早かれ表面の汚れに出てくる。すなわちハウスダストになり、これを無視することはメンテナンス品質の低下を招き、回復には多くの労力が必要になるのである。
先生はカーぺット表面を測定し、それを品質管理とすることの危険性を次のように指摘している。以下、引用する。
「カーぺットの外見上の汚れ測定法として利用されるのはKuberuka-Munku関数を用いて光量比から測定し、さらにFlrorioとMerser
uauの定義する汚れを計測する方法が多い。この数値はカーぺット表面からの反射率の低下量をパイル間の蓄積汚れで表す。カーぺット内部のハウスダストや残留洗剤量までを内部探査する方法と誤解したり、拡大解釈してはならない。また、外見のきれいさや、その現場の光源の影響が大きい(生鮮食料品売り場の光派を見れば理解できる)。
内部の汚れや目に見えない汚れ(洗剤、細菌、カビ、ダニ、すなわちハウスダスト)などの管理には、厚生科学研究などで行われた透視度法、フイルター法など、ほかの手法が必要である。
これらの資料には膨大な生データーがある。厚生省への調査報告には記載されていないが、ビル、新幹線、レンタルマットなどのほか、木床、ビニールタイルなどの対比データーは今後ハウスクリーニング、ビルメンテナンスの品質管理、クレーム対応などあらゆるデータベースになりうる。
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| 反射による汚れ測定の変形法で、保障カーペット時代、品質管理用器具で 濃度の異なる10段階のガラス板を新品カーペットにあて、 汚れた状態に見立て汚れの段階を決める。 カーペットの色や現場の光源の演色性に影響される。 標準汚染布を拡大解釈した方法で最近は見かけない。 |
4、しみぬきの技術の集大成
先生の研究は、しみぬきの歴史としみ抜き薬品の歴史の集大成である。平安時代からのしみ抜き技術をまとめている。我々も明治以後の資料をインテリアクリーニングの歴史として先生に提出した。戦前、しみ抜きは衣料品が主体であるが、家のアク洗いに代表されるハウスクリーニングや家具、美術品のしみ抜きや、ホテル、ダンスホールなどの木床への輸入油性ワックスの塗りこみと艶出し作業などがあった。
また、明治末には籐椅子、パナマ帽などの漂白がかなり流行している。当社はこれらの資材を製作していた。すなわち当時は現在のビルメンテナンスやハウスクリーニングなどが雑然と入り組んでいて、未分化の状態であった。むしろインテリアクリーニングが適当な名称といえる。
それと同時に、しみ抜き薬品の製造の歴史も記載されている。次亜塩素酸ナトリウム(カビキラー)は明治初期である。そして先生はしみ抜き薬品(添加剤を含め)300種の用法をまとめられた。最近、あらゆる汚れが落ちるしみぬき剤が出まわっている。しかし、これを待ち望んでいるのはクリーニング業界で、特に和服のしみ抜き業者であるが、まだ使用されていないし、技術的に不可能であろう。
次に重要な資料は1950年代からのカーペットクリーニング用洗剤、しみぬき剤、洗浄機械のカタログと分析値などのデーターである。また、ハウスクリーニング関係の30年間のクレーム事例と問い合わせ例が散逸している。
大島、森谷先生の資料とともに東京、横浜ビル協、ハウスクリーニング協会に断片でも残されていれば幸いである。特にハウスクリーニング業界にとっては、公的裏づけのあるテキスト作成に必要である。
5、まとめ
ビルメン業界は学界の公的研究をもっと多く利用すべきであろう。そして、それに業界の意見を述べるべきであろう。また、研究には進んで参加すべきである。我々もカビの研究で国立衛生研究所へ、ダニの研究で都衛生研究所へ、残留洗剤の研究でクリーニング総合研究所に出向き、多くの知見を得た。わが国トップレベルの先生の指導をうけられることはそれほど多くない。しかも無料である。
国立衛生研究所では大手化粧品メーカーの研究員と一緒になり、化粧品とカビの関係の意外な事実を知る事ができた。最近はビルメンにも修士クラスが多く入社している。これらの人々に協会と学界との橋渡しをしてもらえば業界のレベルは間違いなくあがる
環境問題の関心が高まっている今こそ、ビルメンナンス業界が社会から再認識されるチャンスであろう。ここに述べた3人の先生方はビルメンテナンス作業を難しくするのではなく、ビルメンテナンスの重要さを最も認識していた方々である。
森谷先生が関連業界で最も評価していたのは横浜PCOであるが、むしろPCOにとって、ありがたくないIPM(総合防除)の考えを進められた。これらの先生方の提言は販売業者の提言より耳に入りにくい。しかし、業界にとって最も利益になる提言である。これらの提言にもとづく、厚生省や環境省のビルメン向け生データーを廃棄するのはビルメン自身の損失である。また、森谷先生のジョンソン本社での講演内容もぜひ手に入れたいと願っている。