BM技術講座

木村光成(木村ブラシ代表)


吸引力の落ちないという掃除機!?


 吸引力の落ちない掃除機が売れている。ほとんどの掃除機はフィルターの目づまりで吸引力がおちる。なかには87%も低下する機種もある。吸引力が低下するとハウスダストが取り残される。その中身は花粉、剥がれ落ちた皮膚、バクテリア、ダニの糞、ペットの毛、これらは全て健康を阻害する要素である。
 この掃除機の画期的な売り文句は
@ ハウスダストの取り残しは我々の健康を脅かす
A 掃除機の性能低下は我々の健康を脅かす
B 掃除の目的は目に見えない汚れであるハウスダストを取り去ることである
C 清掃の品質は掃除機の性能により決まるーというもの。つまり、性能の落ちる掃除機は清掃の品質も落ちる。しかし、「この掃除機は唯一性能の落ちない掃除機であり高品質である」と自信満々。
 この掃除機は1台8万円を越える価格である。ある現場で、この掃除機の使用をオーナーから指示されたところがある。しかし、ビルメン現場ではまとまった台数が必要になり、指示された現場では10台を越える台数が必要になり、購入費用は自己負担のため、業者にとってかなりの痛手である。
 この話を聞いて残念だと思ったことは、現在、使用している掃除機の性能との比較を求められてビルメンが全く答えられなかったことである。「どの掃除機も似たようなものです」では、今は通らない。自社の使用している全ての掃除機の性能把握と性能管理を行わなければ、ビルメンは掃除のプロとはいえない。掃除機の選択に関してはメーカーを超えるデーターを持っているのが当たり前である。
 1986年の建設省研究では、清掃の品質は掃除機の吸引力と大きな関係があるため、掃除機の性能管理が必要であると提言している。しかし、当時ビルメン代表委員の本田、高橋委員の反対で取り上げられなかったことが20年後の今日、問題化してきている。残念ながらビルメン業界では最近、掃除機の吸引表示がほとんど行われなくなっている。特に自動床洗浄機、アップライトバキュームなどの表示が行われていない。また、輸入機械の場合、吸引力、風量が120V表示のままであったり、風量の表示がでたらめな事例が多い。
 また、業務用と家庭用の違いが、ますます不明確になりつつある。それはヘビーデューティー(過酷な使用に耐える)の訳語をそのままつけたために、家庭用より、はるかに性能の低い業務用が存在していることからもわかる。再度、以前の業務用の定義に戻り再考の必要がある。
 ビルメンテキストではアップライトバキュームがポット型より性能が良いと述べているが、それを裏づける公的データーは見あたらない。カーぺットのパイル内部の汚れを採取して検証した都衛生研究所、神奈川衛生研究所、大阪衛生研究所などのデーターは、全てポット型を使用している。特に大阪衛研の吉田先生はアップライト『ターボ』型ではハウスダストは取れないと述べている。
 最近、ビル管理会社が、ある機種の14インチと16インチのアップライトを比較し、大きさが異なるのに、吸引力性能や回転ブラシモーターの性能が同じであることに疑問を持ち、大型のほうはダスト除去能力が落ちるのではないかとの指摘をした例がある。ビル管理会社は、同じ性能であればダスト回収力が高い14インチのほうが良い。しかし、現場では品質だけを追求するわけには行かない。いうまでもなく効率性と採算性の問題が存在する。
 今後、このような技術的裏づけが必要となる指摘がオーナー側から提示される。販売業者のデーターは公的なものとはいえない。これに対抗するにはビルメン現場の立場の公的な研究データーを持つ必要がある。


 また、注意すべきはバキュームの変化である。ひとつはアップライトの高性能化であり、ポット型への移行である。今ひとつはアップライトの効率化である。吸引力、風量はそのままでの大型化である。いずれにしても最もその現場に適した機械の選択と、その裏づけデーターが要求されている。
 それは長い間タブーであった性能測定と性能評価法が今こそ必要であるということである。カーぺット内部の汚れと清掃機械の性能評価法として
@水を吹き付けて吸引し、その水のにごりを計る(透視度法)
A人工土砂をカーペットに刷り込みその回収量を計る(人工土砂法)
B吸引力の測定を中心とした清掃機械性能測定管理などがある。厚生科学研究で行われたこれらの手法の解禁をビルメン関連協会にお願いしたい。
 また、ビルメン現場が機械メーカーやビル管理会社と対抗できるもうひとつの点は、その現場に最適のバキューム運用法である。それも十分な現場データーの裏づけのあるものである必要がある。
 次に重要な点として、シックハウスはホルムアルデヒドや石油系溶剤がなくなればすむものではないということである。それよりもハウスダストがアレルゲンとして大きな部分を占めている。ビルメン業界はダニや細菌、カビなどの問題をペストコントロールに任せてきた。しかし、薬品散布ではアレルゲンは取り去れない。それどころか薬品そのものが原因物質になりかねない。そして最も安全で効果の大きい主役として登場したのが掃除機である。いかに清掃作業がシックハウスの防御に重要であるかが再認識されている。
 それに気づかないのがビルメン業界であろう。昨年の花王のアレルゲン研究も薬より掃除と換気の重要性を示している。言い換えれば、いかに清掃が重要であるかを示している。ごみの山に薬を撒くのではなく、ごみの片付けが必要である。外見上のきれいさより目に見えない衛生上のきれいさが主流になりつつある。カーペットの表面より内部の汚れである。それを表すのが掃除機の性能である。今回はこの点を突かれたわけである。
 わが国のシックハウス研究は世界のトップクラスにある。横浜衛生研究所の大島博士は学校の木床におけるダニを初めて研究した。そして神奈川衛生研究所にいた森谷博士のカーぺットのハウスダスト研究もある。これを取り入れて、わが国のビルメン業界は世界の最先端にいたことは間違いない。しかし、掃除より薬品散布を主体にするためにハウスダスト分析をテキストから削除したことは残念である。大島博士も森谷博士も若くして癌に倒れた。森谷先生の余命いくばくもないのを知り春原氏、島岡氏とともに東京ビルメンテナンス協会でハウスダストとビルメンテナンスの講演を計画したが反対が多く実現できなかったのは残念である。



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