BM技術講座
木村光成(木村ブラシ代表)
回転ドア事故におけるビルメン現場の対応
1、回転ドア事故のその後
回転ドア問題は、厚生労働省が検討会を設置したことから、安全対策に対する指針が出て1件落着となるであろう。 ただし、横浜ランドマークと六本木ヒルズは刑事事件になっているため、この2つはあとを引くと考えられる。
この問題に対して現在、ビルメン業界は無反応である。回転ドアを使用するためには、警備員の配置が求められ、その対応を行なうのは現場である。
しかし本社は動いていないように見受けられる。特にISO認証を受けている企業は、品質評価に触れることを恐れているのだろうか、この問題に近寄らない。
しかし、事故がおきれば現場の責任が問われることは間違いない。この場合、ビルメンの責任範囲を明確にした契約書、作業指示書の作成を行う必要がある。
従来ビルメンは、契約書を作成しない場合が多く、作成しても玉虫色の内容であり、俗に一式仕様書と呼ばれている。カーペット洗浄一式、回転ドア3基の警備一式などである。
しかし、今回の事故が教えてくれたことは、人身事故にかかわる可能性がある場合は、必ず注意義務の範囲を含んだ書類を作成すべきだということである。
そして内容は、できるだけビルメンに有利な内容にする必要がある。
私の知っているB社、D社など、かなり良くできた書類を現場サイドで作成している。
B社の場合ISO課の関係で現場だけの作成である。幸い今回の改正下請法にビルメン業界も含まれているため、契約書の作成を管理会社に要求しやすくなっている。
上の写真は一見、この問題に無関係であるが、同一の問題を含む事故例である。大型ビルの壁面施工を1週間にわたり行ったが、ゴンドラから油漏れが生じビルの周辺の花崗岩すべてに油じみがついた。
引渡し前にポリッシャー洗浄をすれば簡単にしみが落ちる予定であった。しかし、まったく汚れが取れない。
写真のような吸着によるしみぬきを行わざるを得なかった。そこで大きな問題になった。ゴンドラ作業の場合、警備員がついている。
しかし、警備員の仕事は通行人がゴンドラの危険範囲に立ち入らないようにすることである。上から落ちてくるのは洗剤で、油とは思わなかったとのべた。
しかし、1週間も警備をしていて異常に気づかないはずが無いということになり、注意義務の問題でもめた。この場合、修復費用は数十万円であったが、人身事故に関連する場合は、刑事責任まで生じる。
今回の回転ドア事故の影響は、人身事故に対する補償要求がより一般化する点であり、責任の所在に寄って、ビルメン現場に大きな影響が出てくる。
補償要求が増加する可能性のある事例は、・すべり事故・ガラスクリーニング時の洗剤の跳ね・自動洗浄機の接触事故などがある。
ところで、ハインリッヒの法則という言葉がビルメンテナンス業界では重要法則として扱われ、労働災害防止の基本とされている。
1つの重大事故の影に29の中程度の事故があり、その影に300の軽度の事故があるという法則である。
お笑いの若手芸人「爆笑問題」がこれを種に笑いをとったことから、ビルメン業界よりも一般に広まっている。
2、ビルメン現場から見たハインリッヒの法則
ハインリッヒの法則は労災の問題であり、今回の回転ドア事故の問題とは無関係であるという見方がビルメン業界では強い。4月半ばまで、この問題を取り上げた業界紙はない。
おそらく厚生労働省のガイドラインを業界紙にそのまま載せて一件落着となるだろう。回転ドア事故は、労災ではないからビルメン業界には無関係で、ハインリッヒの法則も無関係だという考えが強い。
このように考えれば無関係といえなくは無いが、最近ささやかれている、自動床洗浄機の接触事故はビルメンに無関係とはいえない。ここで初心に帰りハインリッヒの法則の目的を考えてみたい。
本来この法則は、すべての事故を防ぐための法則ではないだろうか。1:29:300という数字は自分が痛みとして感じなければ意味が無い。
1=300として考えて初めて重大さを感じるが1=1や、1=29では重大さは感じられない。
1=300を感じているのはビルメン現場である。回転ドアの使用期間が長いランドマークタワーやオペラシティは、300の認識はともかく29の認識はあるはずである。
しかし、これらのクレームを認知する目や耳がないと29も300も0と同じである。そして、それらをよく知るのがビルメン現場である。地下駐車場の片隅にあるビルメン現場の声は、超高層の別棟に陣取る管理会社に届くはずも無い。
その上ISO規定外となる、クレーム情報が立ち入り禁止のバリヤーで跳ね返され、ビルメン本社には届かない。
3、ビルメン現場は情報の集積場
ビルメン現場、特に日常管理現場は情報の集積場である。なぜならばトイレ、コンコース、出入り口など、あらゆる部分にクリンクルーが散在し、その情報は一定時間後には必ず控え室にもたらされる。控え室はその日の情報センターといえる。もちろんクリンクルーの控え室が、そのビルの管理センターを兼ねている場合もあり、空調温度、電気的不具合、トイレの汚れやつまり、ゴミ箱、灰皿のトラブルなどの対応指示が連絡される。
しかし、控え室で交わされる何気ない雑談のなかにビル管理に関する情報があることは2、3日このような控え室にいてみればよくわかる。例えば大手洗剤メーカーのしみぬき剤で色落ちが起きることは、その現場のすべてのクリンクルーが知っている事実であったが、知らないのは現場責任者だけであった。あとになって当然、大きなクレームが発生し、これがきっかけで大手メーカーはカーペットしみぬき剤システムを変更したという事例もある。
クリンクルーから、このような情報を教えてもらうには、彼らとのコンセンサスが必要である。以前はかなり気楽に情報を教えてくれたが、現在はかなり口が堅くなっている。特に大きな現場では「見ざる、言わざる、聞かざる」の傾向が強い。ハインリッヒの法則には情報収集が欠かせない。なぜなら水面下の事故は「ほう・れん・そう」すなわち報告、連絡、相談なしには意味が無くなる。
では、なぜクリンクルーの口が堅くなったのだろう。パートの増加もその原因であるが、最大の原因はクリンクルーの持つ知識、情報の軽視である。また、最近は洗剤、資機材の売り込みは小うるさい現場を避けてビルオーナーへの直接販売が多い。特に外国製洗剤やカーペットメンテシステムの売り込みが目に付き、これらはカタログ上では、夢のような性能をもっているため管理会社が飛びつく場合が多い。それが現場にとって、性能や価格の点でメリットがあればよいが、性能や安全性に問題がある資機材も多い。しかし、オーナー指定であればオーナーの顔を立てざるを得ないのが現状である。しかもこれらは300の小事故の原因になりかねない製品もある。
小事故になりやすい事例は、自動床洗浄機の接触事故、弗酸系洗剤、塩素系溶剤、低価格農薬の使用などである。良い話は報告しやすいが、悪い話は報告されない。その結果が突然の事故につながる。
4、ビルメン現場の活用を
ビルメン現場は単に清掃を行なうだけではない。そのビルのあらゆる使用状況の観察者である。そこから有益な情報を引き出すには、ビルメン現場の正当な評価とビルメン本社やビル管理会社の現場とのコンセンサスが必要である。これが無い場合は、単なる現場の仕事が増えるに過ぎない。ISO書類を作業の何ヶ月も前に作成提出するのとおなじ結果になる。そしてそれをデータベース化しておけば必ず効果が得られる。
ランドマークの場合、管理会社はもちろん、ビルメン幹事会社もほとんどのスタッフが丸の内に移動している。ランドマークにおける11年間の回転ドアデーターも、おそらく丸の内でデータベースとして利用されたはずである。それが十分な内容でなかったということであろう。耳に入りにくく、舌に苦い情報は削除されがちである。また、ビルメン業界ではデーターはただという考えが強い。今後はこの考えを修正し、ビルメン現場のもつ潜在能力の活用をビルメン業界も管理会社も心がける必要がある。