BM技術講座
木村光成(木村ブラシ代表)
ビルメン基礎研究の歴史1(03年を乗り切るために)
ビルメンテナンス、ハウスクリーニングの基礎研究は世界のトップレベル
ハウスダクト研究 −ビルメンテナンス、ハウスクリーニングの応用と提言−
1、カーペットクリーニングに関する厚生科学研究
1980年代の初め横浜開港記念館でカーぺットクリーニングの品質に関する厚生科学研究に関する打ち合わせが行われた。厚生科学研究は厚生省が主体となり学会や民間の公益法人など官、学、民のそれぞれの立場で研究を行い、それらをまとめて公開し、今後の環境衛生の方針決定に役立てる目的で行われた。
当時は酸性雨、四日市喘息、川崎病、在郷軍人病、ダニ騒動,杉花粉など、環境衛生が大きな問題になっていた。これらの問題を解明するため、ハウスダストを最も保持しやすいカーペットのメンテナンスを取り上げ、どのようなメンテナンス技法が最適か、使用した洗剤で、どの程度のハウスダストが除去できるか、というメンナンスの基礎研究と同時に公害病の原因を追究することが目的だった。研究班長は森谷清樹博士であった。
参加者は国立衛生研究所、都衛生研究所、クリーニング総合研究所、民間からは全国インテリアクリーニング協会が参加。あとで聞いた話だが、このときビルメンテナンス業界からの参加を求めたが、目に見えないハウスダストやダニの研究に消極的であり、「3000m²以上のビルにダニはいないし、カーペットメンテは世界最高のパウダークリーニングを採用していて解決済みである」として横浜のビルメンテナンス協会は参加しなかった。
これと平行して、もうひとつのプロジェクトがあった。カーペットメーカーにはダニ問題が命取りになりかねないため、カーぺットメーカーと家電メーカーが大阪府衛生研究所の吉田先生を中心に潤沢な資金で対応研究を進めた。これには当時のダニ、カビ、細菌について活躍していた現役研究者がすべて参加した。
我々は各所で使用中のカーペット、家庭、ビル、レンタルマットなどの各使用条件のカーペットを収集し、それぞれの使用経歴を記載。均一にカツトし、かく研究者に配布した。研究者はそれからダストを採取し、内容(ダニ、カビ、洗剤など)を分析した。
同時にバキューム、洗浄、すすぎの3工程で採取される汚れを採取・凍結して、研究者に配布し、そこから各工程で除去されるハウスダストを測定した。我々も各研究者とともに分析にたずさわった。特に都衛生研究所でのダニの検出には1ヶ月以上たずさわった。そして約1年後に調査結果は厚生省に報告された。その主なものをまとめると以下の通りである。
1、一定の性能の清掃機械を使い、一定の作業方法〔これを標準作業法と名づけた〕で行えば、ダストの80%程度とカビの80%、残留洗剤80%が除去できる。ただしダニは20%程度に過ぎず、カーペットの毛長などの影響もある。標準作業法は、第一工程―バキューム、第二工程―洗浄、第3工程―すすぎ。特に重要な点は、吸引性能が2000ミリ水柱、風量2.3m³、吸い口幅200ミリ以上であること〔家庭用掃除機の標準〕。品質管理は清掃機械の性能管理が必要であり特に吸引力の測定は欠かせない。
2、吸引力の表示がカタログと異なる機械が多い。またアップライトバキューム、自動床洗浄機の吸引力が表示されていない。この研究で60機種以上の清掃機械の性能測定を行った。
3、この研究ではカーペットはすべて分解して繊維と基布にわけ、そこに残るダストを計測した。約20%は残留する。
4、品質評価法としては以下の3つの方法を考案した。透視度法、フィルター法、テーピング法である。厚生科学研究から生まれた品質管理技法であり、今後、改正ビル管法にも衛生的品質管理技法として、特に清掃機械の性能評価に有効である。
5、市販清掃機械を資料採取用に使用できるが、その性能を明記することおよび吸引力、風量はカタログより低いものが多い。50%以下の例もあるので必ず実測する。以下厚生科学研究時作成した専用機を示す。 この研究の特質は、ダニも残留洗剤測定もカーペットをすべてほぐして繊維と基布について分析を行ったこと。その結論はカーペットの下部や木床の溝など、汚れの取りずらい部分の清掃は清掃機械の性能が品質管理とクレーム防止の基本であるという結論に達した。
| [改正ビル管法] | ||
| 技 法 | 採取資料 | 対象、目的 |
| 透視度法 | すすぎ汚水 | 床、壁面の衛生的きれいさ、清掃機械性能比較 |
| フィルター法 | バキュームダスト | 同上 |
| テーピング法 | 対象物直接 | 同上、外見上のきれいさ、清掃機械性能比較 |
| テーピング法を除く採取条件。真空度2000水柱、風量2.5m³、1m²、1分。 | ||
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| テーピング法は洗浄前の部分に テープを張り、取り外してきれいさを比較 |
透視度用汚水採取機、吸引力、水量可変。 2000水柱、水量毎分1リットル。1m²1分作動 |
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| 透視度法。すすぎ水のにごりを測定する。 | フィルター法、各種ふるい、 各種フィルターなどを重ねあわせ ダストを吸引分離する。 |
2、国立衛生研究所宇田川グループによる好乾性カビ類の研究(ハウスクリーニングとビルクリーニングの差異の裏づけ研究)
研究の成果は、比較的乾燥した部分に生息する好乾性カビ類の生態が明らかになったことである。このカビは居間や寝室に多く生息し、キッチンや浴室は好湿性カビ類の世界である。好乾性カビ類が学会に報告されたのは1970年台であり、この研究は世界的に早い時期の研究といえる。
人に与える影響は好乾性カビ類のほうが大きい。なぜなら、浴室と寝室を比較して、どちらに長い時間いるかを考えればよい。残念ながらビルメン業界とPCO業界にほとんど好乾性カビ類の知識が無いことが残念である。
3、ハウスダストの生物学とシックハウスとの関連 すべての原因はハウスダストにある
ハウスクリーニングとビルクリーニングの違いが、この研究ですでに予測できた。そして改正ビル管法でもビルメンテナンス、ハウスクリーニングの重要性が明確になり、薬品の使用に頼ることの危険性が指摘された。
この研究で明らかになった事柄を列記する。
@ハウスダストの中には細菌、好乾性カビ類、チリダニ、茶たて虫、などの弱肉強食の生態系ができている。それは換気の行われない室内の微気象が原因である。ハウスダストの除去すなわち掃除の重要性が裏づけられた。
以下にハウスダストの生態系を記す。
A ハウスクリーニングとビルクリーニングの違いは、土足かどうかではない。外国での土足の生活でシックハウスやアトピーが起きないわけではない。その場所でどのような生活をするかが問題である。ビルメン業界がこれを理解できない理由は、外見上の汚れしか考えないことによる。外見上の汚れは対象が物品であり、受注価格の歯止めにならない。しかし、健康は金額で換算できないことを理解する必要がある。
Bカビ、ダニ、細菌などの対応を薬品で対応する作業は簡単であるが、多くの問題が指摘されている。殺菌剤、殺虫剤は本来毒であること。次に薬品に強い生物を作り出す危険がある。
C 共稼ぎ家庭の増加による清掃の不足、住居の機密性と冷暖房の増加による換気不足などで、下記のようなハウスダストの生態系が形成される。その生態系の破壊の手段は効率の良い清掃と微気象の停滞を防ぐ換気である。
Dこの厚生科学研究ではダニ、細菌の除去率は良いとはいえない。ダニは当然、何億年の昔から動物にしがみついて生きてきた。バキューム程度では取り去れないのは当然である。しかもカーペットやハウスダストの中深く隠れている。スチームクリーニングなど短時間の加熱で死滅するものでもない。バキュームによるカビの除去率は80%を超えるが、そのときだけの除去率であり、すぐに元に戻る。薬品も長期間効果を保つものはほとんど無い。それらの効果の大きいDDT,BHCは人に有害であり、ダイオキシンの親戚でもある。最も有効な手段は、清掃を定期的に行い、同時に換気を励行することである。
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| 好乾性カビ類の検出培地DG18 | 落下細菌テスト、事務所ビル、新幹線、家庭の違いを明確にして各々の現場における最適清掃技法の選択。たとえばハウスクリーニングとビルクリーニングの作業法の違いについて裏づけを作成することにある。 |
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| 好乾性カビ類の飛散テスト。クーラー作動時との関係を見る。ハウスクリーニングのデーターであり、座った時の口の位置を高さ40センチと決めて採取。 | アップライトバキュームの現場吸引力測定。現在でも販売業者はほとんど行わない。 |
4、厚生科学研究の結論
環境の管理 目に見えない汚れ(空気、水、ハウスダスト)の対応
清掃の目的は、物よりも人の健康が対象である方向に変わっている。透明できれいな湯に大量のレジオネラが生息している。芳
香剤の香りがする居間や寝室の空気にホルムアルデヒドが繁殖する。目立たない好乾性カビ類には必ずチリダニがいる。このよう
に最近の清掃の目的は目に見えない汚れ〔住人の健康維持〕が対象である。
ハウススクリーニングでは土足による目に見える汚れより、ペットの存在が健康に与える影響は大きい。言い換えればハウスダストの量よりもその質が問題である。
ビルクリーニングとハウスクリーニングの違いは、土足かどうかという短絡的、外見的な分類ではなく、目に見えない汚れと、それが使用者に与える影響の程度の点から対応すべきことを示唆している。
佐々学博士、大島司郎博士など研究者の50年にわたる研究はビルメンテナンス、ハウスクリーニング、病院メンテナンスの今後の方向性を指し示している。昨年の改正ビル管法は大島、森谷、林各先生方の20年間の研究に基づいているといえる。40年前大島先生はバキュームの吸引力、風量を測定表示しているが、改正ビル管法は40年目にして機械性能管理も品質管理として取り組み始めた。
これら過去の研究をメンテナンス業者の立場からまとめ、メンテナンス業界でデータベース化しておけば将来の法改正に先行することにもなる。それが無理であれば、散逸廃棄されつつあるこれらの資料を無視せず、生データをデジタル化して後世に残すアーカイブ化が我々の義務である。利用するかどうかは今後ビルメン業界を受け継ぐ若い人たちが決めることである。もはやメンテナンスの品質提示に反対し、受注価格の値上げは賛成というわけにはいかない。この2つは切り離すことはできないのである。
5、森谷先生の提言
(ビルメンテナンスの重要性について)
その後、森谷先生は神奈川衛生研究所を退職され、県立博物館に移られた。そこでオランダのハウスダスト生態学者でありアレルギー研究者のブロンズウイック博士が書いた、ハウスダスト生物学を翻訳し、環境管理とビルメンテナンスのソフト面の研究に取り組まれた。
その要点は
@ 今後の住環境管理は、ビルメンテナンスの役割が大きい。見えない汚れに対応することはビルメンテナンス業界の社会的 地位向上と受注価格の歯止めになる。このため基礎研究はビルメン業界自身が取り組む必要がある。カーペット、石材,木床メー カーも販売が目的でメンテが本業ではない。これらの業者のメンテナンス法が価格的、環境衛生面から最適とは言えない。また洗 剤、清掃機械メーカーも自社商品や自社システムがはじめに出てくる。今までのビルメンはそれでも済んでいたが、今後は現場の 立場での技法が求められていく。
A コンピューター導入により各ビルメンが、過去の資料をデータベース化することで新規 業者より優位に立てる。なぜならば過去は金で買えない。
B ビルメンテナンス業界で品質管理に最も重要な役割を持つ人た ちは、現場のクリンクルーである。このため研究決果をわかりやすく現場の人たちに知らせる必要がある。10人のダニ学者より 100人のダニとハウスダストについての基礎知識をもつクリンクルーが必要である。必要なことは実際にダニを見てみることで ある。そして、それをビルオーナーに説明することである。現場データーによる提案書である。これが品質低下を防ぎ価格低落の 防止につながる。
C 学者とビルメンとのコンセンサスの不在
学者はビルメンの現状を知らない面が多い。ハウスダスト生物学にも日本では電気掃除機があまり使用されていない。また、わが国の論文の中には、パウダークリーニングが業界の90%であるという箇所や、ポリッシャーのブラシに汚れやダニがほとんど付着していないとして、ポリッシャーはハウスダストの除去にほとんど効果がないとの報告を厚生省に提出している。森谷、宇田川、林という諸先生は、例外的に我々の話を理解してくれた数少ない学者である。
当時、我々は石材メンテナンスのビルメン側のテキストが無く、責任のすべてが現場に転嫁されていた。また、カーペット、木材も同様であった。東京ビルメンテナンス協会、島岡氏より話があり、石材メンテナンスのテキスト作成に当たり、県立博物館鉱物関係者と鉱物学、石材メーカー、ゼネコン、ビルメンの考え方を確認し、メンテナンスの立場でテキスト作成に取り組んだ。この根回しで森谷先生の協力を得た。
そして、テキストをすべてデジタル化することを示唆された。しかし、残念ながらいまだに関連協会テキストはパソコンアレルギーのため、そのままで、すでに10年が過ぎている。なんとか森谷先生の要望にこたえたい。
その後、石材で忙しく数年先生とお会いする機会がなかった。協会テキスト・石材メンテナンスのCDテキスト化の反対が多く、これを乗り切るための相談にうかがった。先生は関内に研究室を持たれていたが、大きな病気をなされた後であった。研究室はペストコントロールの援助によるもので、古いビルだが、すばらしい雰囲気があった。最近ではあまり見かけない顕微鏡に取り付けてスケッチするアッペ描画装置とパソコンがあった。そこに我々は1年間通い、ランドマークホテル、新幹線、県庁舎、などのハウスダスト分析とダニの標本作りを行い、ビルメンのデータベース作成資料を集めた。それらの散逸を防ぐため東京、横浜両協会と現ハウスクリーニング協会に保存することにした。
また、先生は東南アジアの衛生研究所に出向かれ、その資料を先生の持論である「清掃技法はその国の気候と生活様式ごとに存在する」という理論の裏づけに使われた。そしてアメリカのジョンソン本社に招かれ、そこで講演された。ところが先生の体調を見るとあまりよくなく、一年程度との話が流れた。そこで我々はあわてだし、これらの資料を少しでも残すことを考えた。まず、ハウスダスト生物学の80年代以降の環境管理ソフト、すなわち清掃技法に関して、この本の版権を得ることであった。そこで大島先生から森谷先生のハウスダスト理論を当時未だ話題性のあるダニでセミナーを開き、少しでも将来のビルメンデータベースのために残すことを考えた。
また森谷先生の著書「家の中のダニ」を普及し、我々がまとめた「ビルメンのための顕微鏡の使い方」を業界に配布しようと考えた。そして、反対を押して現ハウスクリーニング協会にそろえた実対顕微鏡、ハウスダスト分析用具、10セツトを使い森谷先生によるセミナーを開催できた。
不思議なことに当日、大量に検出したダニは、ほとんどがマルニクダニであり、これは大島先生が研究され先生の名前がついたダニである。しかし東京、横浜両協会でのセミナーは島岡氏の奔走にもかかわらず、ハウスダストやダニ、清掃機械の吸引力などの話は寝た子を起こすとの理由で開催できなかった。
このため顕微鏡の買い入れとパソコンによるデータベース作成をある大手ビルメンにお願いした。しかし、ビルメンに必要なものは顕微鏡より18金のパターといわれ落胆を禁じえなく、かえって先生に慰められた。
まもなく先生は入院され亡くなられた。残念ながら先生は残された宿題を何一つ片付けていない。それどころかビルメンに残された資料はビルメン業界により焚書坑儒の難にある。しかし、幸いなことにビルメン業界の1部の協力によりデータベース化と資料の再収集が始められた。とりあえず散逸資料をお持ちの方はご協力願えれば幸いである。
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