BM技術講座
木村光成(木村ブラシ代表)
ビルメンテナンスの基礎技術は世界のトップレベル
ビルメンテナンス、ハウスクリーニングの基礎研究の歴史
2003年問題。すべての関連誌がビルメン受注価格の今後の低落を予測している。その乗り切り策は…となると抽象的で具体的なものはない。「今こそビルメンのプロが求められている」(ビルメンテナンス1月号)などの表現だけで具体的な処方箋は示されていない。
その解決策の1つは、ビルメンデーターをビルオーナーと共有して積算、見積もり内容のコンセンサスを締結する。そして2つ目に、データーベースの作成とパソコンの導入である。この2つをビルメン自身が取り組むことが必要である。
データーベース管理による情報をオーナーと共有することが叫ばれてから、すでに10年になる。しかし、昨年の全国協会の調査でも、いまだパソコンの使用がワード、エクセル、メールの使用に限られているという実態がある。いまだに大手ビルメンでもインターネットが禁止されているのが現実であり、道は険しい。
しかし、見方を変えれば、まだ過去の状態でこの不況を乗り切れると考え、改革に取り組もうとしない会社が多いことは、多くの改革の可能性を残しているともいえる。
さて、この2003年問題を克服して生き残るためには正しい情報を入手し、それにより方針を立てることである。
バブル時のビルメンは、正しい情報や方針がなくとも、他社や資材業者の情報で動けば利益が得られた。受注額は、ほとんど言い値で下請けに丸投げするだけで20〜30%の利益が得られた。
むしろビルメンの存在の重要性を裏づける基礎研究などは知らないほうが良いと考えられ、研究資料はほとんど関連協会の委員により廃棄され、関連業界内ではこれら研究が知られていない。
このため最近の環境学会などでのビルメンの発表の中に、世界的に認められている基礎研究を知らないと思われる発表が見受けられる。
ビルメンテナンス業界、特にハウスクリーニング業界は、大きな転換期にある。それは業界の目的を大きく変える事を社会が要求していることにもつながる。そして、業界がこの社会的要求を達成できる体制になり得るならば、この業界の社会的地位も数段上がることは間違いない。そして受注価格の低落にも歯止めがかけられる。
今後の業界に求められる使命は
物 → 人の健康
外見的きれいさ → 衛生的きれいさ
物の価格は算定できるが、人の健康は金額ではあらわせない。今後ビルメン業界の価格低落を理論的に食い止めるには「外見的きれいさ」ばかりでなく、衛生的きれいさを考えなければならない。なぜならば建物の価値は算定できるが人の健康の価値は算定できないからだ。
衛生的きれいさの研究はハウスダストの研究であり、ビルメンの目的はハウスダストの除去にある。特に衛生的きれいさが求められる病院、ハウスクリーニングでは、ハウスダストの基礎研究は重要である。病院メンテナンス、ハウスクリーニング、ビルクリーニングの違いは要求される衛生的きれいさの違いに過ぎない。
以前ビルメンで提唱された「3000u以上のビルや土足で出入りしない建物がハウスクリーニングの範疇」などという考え方は、現在では通用しなくなっている。衛生的きれいさはハウスダストの内容である。
現在、ハウスダストの研究はハウスダストバイオロジーとして仮説の段階から学問体系としてアトピー、シックハウスの解明に大きく貢献している。
この学問体系に大きな役割を果たし、ビルメンテナンス、病院メンテナンス、ハウスクリーニングの区別と必要性を裏づけ、基礎研究を行い、ハウスダストバイオロジーの完成に貢献し、世界的な評価を得ていて、ビルメン業界では無視されている今は亡き3人の先生方がいる。
それは横浜衛生研究所の大島司郎博士、神奈川県衛生研究所の森谷精樹博士、戸塚のクリーニング総合研究所の林喬先生である。
その業績をたどり、重要性を再認識したい。そして、ビルメン関連業界で廃棄されたビルメン業界のための助言・提言をまとめておくことが、残された者の義務と考える。20年前の提言が、昨年のビル管法の改正に織り込まれていることを考えると、これらの基礎研究がいかに重要であり、先見の明があったかの証明であろう。
1、ハウスダスト研究の世界的先駆者大島司郎博士
それはすべて横浜から始まった。不思議なことにビルメンテナンスもカーペットクリーニングも床材用合板のルーツもすべて横浜である。そしてビルメンテナンスのテキストの基も米軍のミル規格である。1950年はじめ、米軍払い下げのポリッシャー、ヒールドを我々が修理したのも横浜根岸であった。
現在、クリーニング総合研究所は東京四谷に移転したが当時は戸塚にあった。しかし、これらの歴史と研究は東京・横浜のビルメン関連協会ではほとんど評価されないし知る人もない。
1960年のある夏の日、一人の科学者が学校の床から集めたごみを顕微鏡で調べていた。その視野には多くのダニが動いていた。この瞬間から、ビルメンテナンスの基礎的理論となる、ハウスダスト生物学が始まったのである。
シックハウスの発生と原因も、昨年の改正ビル管法の成立も、すべてこの研究の延長線上にある。そして各所から採取したダストについて、塩素系溶剤を用いて恐ろしく手間のかかる手法で分析した。
今日われわれがより簡単な分析法を使用できるのも、これら先達の研究があるからである。しかし、先生は1980年に亡くなられた。現在、禁止されている塩素系溶剤(パークロールエチレンなど)の使用が原因との見方もある。
まさにビルメンの基礎研究のための戦死ともいえると同時に、後に発ガン性と環境汚染で禁止になる塩素系溶剤が原因とすれば、なんともいえない因縁を感じる。しかし、その後カーペットのダニの存在は、カーぺット業界では大きな問題で、ビルメンは「3000m²以上のビルにはダニは存在しない」という結論を出すため、この研究を無視してきた。
この研究が最も必要な国は皮肉なことにわが国であり、特にハウスクリーニングではハウスダストと室内の微気象相関が問題になっている。土足かどうかの問題ではなくハウスダストの質の問題であることを明白にした研究でもあり、「清掃方法は各国の気象のよって異なる」との最近の研究の端緒でもある。もちろん、わが国で世界的研究が実を結ぶためには佐々学博士や宮本昭正博士など多くの先達の存在がある。
また先生はビルメン、ハウスクリーニング業界に提言やメモを残されたが、ほとんどが廃棄されている。これらを後世に残すことに現在取り組んでいる。ぜひご協力願いたい。
以下にオランダのハウスダスト研究者から寄せられた大島博士の研究への賞賛を記す。それは森谷精樹博士の訳されたハウスダスト研究の名著「ハウスダスト」の生物学の前文である。
また、大島博士の論文「室内塵とダニ」はビルメン、ハウスクリーニング、病院メンテナンス関係の指導講師は清掃の立場で通読していただきたい。
輸入清掃機械、輸入洗剤のカタログには、日本の清掃についての研究が世界の中では遅れていると記載されているものが多い。しかし、日本の基礎研究はトップレベルであり、そのことを知らないのが日本のビルメン業界である。
