BM技術講座
木村光成(木村ブラシ代表)
新幹線硫酸事件を推理する
新幹線車内で硫酸?こぼす 刺激臭、7人病院搬送
日経新聞によると、事件は1月31日午後7時55分ごろ発生した。JR東京駅の助役から「到着した新幹線ひかり320号内で、乗客が硫酸をこぼした」と、110番通報があった。乗客らは駅ホームに無事避難したが、硫酸を所持していた乗客が薬物によるやけどを負い、対応に当たった乗務員、駅員計7人が薬物による刺激臭で気分が悪くなるなど病院に搬送された。東京消防庁が化学災害対策部隊を出動させるなどホームは一時、騒然となったという。
警視庁丸の内署の調べによると、薬品をこぼしたのは東京都在住の自営業者の男性(62)。この男性は「薬品はトイレのさび落とし用の硫酸で、取引先にもらった」と話しているといい、同署は薬品の特定を急いでいる。
男性は名古屋駅で乗車し、薬品の入った1.5リットルサイズのペットボトルを入れたリュックサックを隣の座席に置いた。新横浜駅の手前でペットボトルに穴が開いて薬品がこぼれているのに気づき、車掌に伝えたという。座席はこぼれた薬品で素材が溶けた。
JR東海によると、車両は大阪行き(のぞみ155号)として折り返し出発する予定だったが、処理のため同号は別の車両に振り替え8分遅れで出発。後続列車に大きな遅れはなかったという。
ビルメン現場でも危険な洗剤 新幹線事故を推理する
この事件をビルメン現場の立場で考えてみたい。事件が大きくなり、化学災害対策部隊が出動した裏には、テロの危険があるからである。ビルメン現場でも、汚れ落としのため危険な薬品が使われていることから、いつテロの危険にさらされても不思議ではない。
テロについて、いろいろな対策やセミナーが開かれている。しかし、これらの資料を踏まえた上で、ビルメン現場の対策を関連協会が作成する必要がある。なぜならば、そのビルをよく知るのはビルメンであり最も危険な立場にあるのが現場のクリンクルーだからだ。
危機管理専門の大学教授の話が無意味だとはいわないが、特定ビルの人の出入りなど、動的な使用状況を知るのは現場のクリンクルーである。サーズに関しても最大の危険は現場であろう。このため、ビルメン現場へのサポートが必要である。
しかし、関連協会の一部委員の事なかれ主義で、何のコメントも出されていない。それどころか、「現場にパニックがおきる可能性があるため情報を流さなかった」との大手ビルメンもある。これはビルメン現場に対する軽視と差別に他ならない。
今回の事件のように大きくなくても、類似する事故が現場で起きないとも限らない。
例えば、トイレ用洗剤をデパートなどにある子供用ベッドにこぼしたとしても大事にはならない。この事件はいろいろなトイレ洗剤についての多くの教訓を含んでいる。
ビルメン現場の立場での事故を推理する
1、この洗剤の内容は
私が調べたところ、この男性は孫請けのビルメン業者で、現場のトイレの汚れが落ちないため、オーナーからの苦情が絶えない。改正ビル管法で早急な対応とインスペクションが行われるため、名古屋の元受の大手業者D社から、トイレ汚れのよく落ちる洗剤を分けてもらったというものだった。
問題点は以下の通り@薬品が何かAなぜ容器からもれたかB薬品または洗剤はどのメーカーの品物だろうか?――以上3点を考察してみる。
報道からは塩酸説と硫酸説がある。まず、トイレ用塩酸をわざわざ名古屋から運ぶことはない。サンポールなど簡単に入手可能だからだ。ビルメン業界で使われているトイレ用洗剤を表記してみる。ISO14000を取得している業者などは、取得基準に抵触するためビルメン業界に危険な洗剤はないという。しかし、それは建前で、下請けでは劇物の使用は当たり前で、皮膚損傷は日常茶飯事である。その理由は、安全性をうたう劇物(弗酸系)が最近特に多いことがあげられる。
ビルメン業界のトイレ洗剤
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NO |
名称、内容 |
内容と濃度 |
使用箇所、販売ルート |
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1 |
中性トイレ洗剤 |
ほとんどが界面活性剤含む |
ビルメン日常、家庭用、大手洗剤業者 |
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2 |
酸性トイレ洗剤 |
塩酸10%以下 |
〃 |
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3 |
研磨剤入り洗剤 |
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〃 |
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4 |
塩酸 |
35%塩酸 |
資材業者 |
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5 |
シュウ酸入り洗剤 |
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家庭用、 |
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6 |
塩酸、硫酸 |
塩酸、50%、硫酸50% |
下請け業者が使用 |
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7 |
塩酸,弗酸 |
弗酸系15%が多い |
〃 |
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8 |
塩酸、弗化アンモニウム |
弗酸系15%が多い |
〃 |
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9 |
上記の単品使用 |
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〃 |
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10 |
水酸化ナトリウム顆粒 |
中和に使用される、本来は流しのつまり溶解用 |
最近家庭用として見かけなくなった。おそらくPL法の問題であろう。 |
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注1)4の塩酸以下はすべて劇物 |
2、新幹線の座席が溶ける洗剤
名古屋駅から東京駅はのぞみ号で、わずか1時間40分である。その間にイスまで溶解し、ガスを発生するということはかなり強力な洗剤と思われる。新幹線系の座席はナイロン6である。これは塩酸でも溶解するが、塩酸は揮発しやすいため気づきやすい。弗酸も同様である。短時間で座席を溶かし、かなりのガスを出すとなると、市販洗剤では塩酸と硫酸の混合洗剤の可能性が高い。皮膚損傷の場合でも硫酸は気づくのが遅く、傷も深くなる。トイレの汚れ落しでは、弗酸ほどではないがよく落ちる。
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| 700系外観 | 700系座席、ナイロン6使用 |
3、なぜ容器からもれたのか?
通常、塩酸、硫酸、弗酸はポリエチレンのボトルに入れられている。しかし、ペットボトルは現在、ポリカーボネート製が多い。ポリカーボネートは、ポリエチレンほど耐薬品性は強くない。おそらく少しずつの損傷が重なり、洗剤が漏れだしたと考えられる
4、この事件が教えるもの
なぜ、この事件をこのようなとり扱いをするのだろうかと疑問に思う方々は、ビルメン現場や下請けの現状を把握していないということである。ISO14000、インスペクター制度、マネジメント能力、改正ビル管法など、すべての負担が全くの支援なしに現場や下請けにのしかかっている。この現状が事故という形で表面化したのが今回の事件であろう。もちろん、この話は推測も含まれているが、しかし、トイレの汚れは清掃のはじめからの課題であった。
光触媒、におい汚れ吸着素材、機能水、電解水、波動水、マイナスイオンなど、次々に開発されても、まだトイレの汚れは解決していないということである。ISO14000の基準は、自然にやさしいが汚れの全く落ちない洗剤を与え、それをインスペクター制度で評価採点する。こうした矛盾と戦い、汚れと格闘しているのが現場の現状である。今回の問題はこの現状が表面に出たに過ぎないと思われても仕方がない。
現状は、技術的基礎的な情報が現場にはほとんど伝わらない。業者の販売のための製品情報がほとんどである。