BM技術講座
木村光成(木村ブラシ代表)
ビルメン現場は人材の宝庫
埋もれている現場の研究データと人材の活用を
50年間、ビルメンの現場に出入りして来たが、現場は人材の宝庫であることを感じている。われわれの資料の大部分は現場から仕入れたものである。とくにバブル崩壊後は、各業界のエキスパートである、いわゆるオタクと呼ばれる人達やリストラによる技術者などがビルメン現場に入り込んでいる。
これらの人々から多くの助言や参考書の書名などの知識を得た。また、研究者の名前なども紹介された。もちろん国立衛生研究所の宇田川博士、都立衛生研究所の吉川博士、神奈川衛生研究所の森谷博士、クリーニング総合研究所の林先生など、多くの研究者のご指導を受け、神奈川県立博物館の先生方には石材メンテナンスの違い、石材メーカーやゼネコン、鉱物学、ビルメンとの問題点、花崗岩の分類についてなど、多くの助言をいただいた。
こうした学問的な研究者の先生方と異なるが、各産業の現場技術者の知識はビルメン現場に有益なものが多い。そしてビルメン現場には考えられない高度な技術者が埋もれている。私も携わった東京ビルメンテナンス協会の石材メンテナンステキストは、このような人達の指導で作成できたと言っても間違いではない。
作成に携わった横浜の現場にいた60代の方は、秋田鉱専(現・秋田大学)の出身で石油採掘の技術者だった。この技術は石灰岩の中の化石(有孔虫)を取り出し、顕微鏡でその種類の比率から地層の年代を決め石油の探査をする仕事で、大理石でも、ライムストーンのメンテナンスについては大学の研究者以上の知識の持ち主だった。
また、20代後半でドラゴンクエストの製作に加わったコンピューターソフト技術者もいた。ビルメン産業が生き残るためには、パソコンで管理データを処理する必要があり、いつでもビルオーナーに清掃などの状態を提示できるシステムが必要になる。彼からはパソコンの活用法は文書作成や表作成などのワード、エクセルが主体ではなく、データ管理であることを教えられた。このため、東京協会の石材メンテナンスはデジタルテキストとして設計されていて、そのように提案してあった。しかし、7年たった今も残念ながら実現していない。
このほか、新幹線で好乾性カビ類の採取を行っていたときは、カメラ専門のフリーターの方にデジタルカメラの理論と将来についての説明を受けた。この知識が元になり、つやだけをきれいさの基準としているグロスメーター万能主義の現状を打開するため、現場インスペクションへの応用としてビルオーナーへの提案書にデジタルカメラや照度計など複数の光学測定機器の数値組み合わせ導入を考えて取り組んでいる現場の若い人達がいた。
最近の話では京都大学薬学部博士課程で有機合成を卒業される方が来て、今まで取り組んできた有機合成研究をビルメンテナンス業界で生かせないかを探るため、ビルメン現場の現状、ビルメン業界の研究者など、ビルメン業界の情報を知りたいと相談があった。しかし、ビルメンテナンス業界は研究者を評価し受け入れる土壌がなく、室内環境の基礎となるハウスダスト研究も、コンピューターによるデーター管理の取り組みも対応が遅れていることを説明した。
このように最近、ビルメン業界にはかなりの専門家が採用されている。しかし、これらの人々が適材適所に使用されているとは言いがたい。特に女性の修士課程修了者がかなり見受けられるが、社内の書類搬送、コピー係などの作業がほとんどである。このような経済学や統計学などを学んだ人達の新鮮な知識を生かして、業界の資料分析や作業マニュアルなどの作成に生かせないだろうか、と常々思う。
ビルメン現場は各業界の人材が集まる場所でもある。かなりの学生がアルバイトでビルメン作業を経験している。若い人のほとんどが現場経験者ともいえる。われわれが出あった各分野で活躍している人たちも、ほとんどがビルメン経験者であった。それぞれ事情を抱えビルメン現場に戻ってきた人達である。この人達は自分から知識を絶対に出さない。われわれが石材やハウスダスト、好乾性カビ類の調査を行っているのを見て話しかけてきた人である。
こうした知識を持った人たちは、ビルメン現場の研究について、目に見える用具の改善などは取り上げられても、基礎的研究は認められないということを身に滲みてわかっている。このため現場のデータや人材を掘り起こすには、データの価値やその人の持つ知識、技術を認め、理解していることをその人達に認識してもらうことが必要である。
本社からはデータや基礎知識は手に入れられない。現場と本社との技術的交流はあまりない。ほとんどのニュース源は資材業者であり売り上げにつながらない問題は見向きもされない。
話は変わるが、現場に流れる情報について考えると、例えばワックスや洗剤についての他社との比較方法など、現場が必要としている情報についてメーカー自身は教えない。しかし、他社に対応する自社の商品名だけは指示してくる。また、安全ラベルの内容に関する疑問点や自動床洗浄機の吸引力についての現場数値測定、正しいブラシ圧、パット圧などはまず無視される。
ビルメン業界のメーカー情報はあまりにも宣伝色が強く、販売目的のものが多い。新しく販売される資機材は必ず長所と欠点がある。販売目的のカタログ資料には欠点については述べられていない。現場では資機材の利点と同時に欠点が必要であるが、この業界ほど欠点、注意点の資料が入手しにくい業界はない。
特に最近、良いことずくめの傾向が強い。そして良いとこ取りの積み重ねが物理、化学の法則の否定にまでつながる。例えばウールにアルカリ洗剤が不適であることは繊維業界や洗剤業界、家電業界などでも周知の事実であるはずである。また、墨汁は顔料であるが染料として取り扱っている。これは高校の教科書に出ている溶液の定義を否定したことになる。
このため、これらが遠因になっているクレームの割合が、現場において目に見える形で多くなっている。その責任は、販売業者ではなく、使用者である現場がとらされる。
残念なことだが、ビルオーナーの推薦で使用した洗剤、保護剤でもクレームを起こせば全てビルメンの責任になるのである。最近、この事例が多く現場を苦しめている。このためには使用洗剤、機械などの良いこと尽くめのマニュアルでなく、クレーム防止を主体とした使用マニュアルが必要である。
また、資機材のクレームが最初に起きるのは当然、使用現場であり、その原因追究も現場で行うしかない。そして原因解明は、販売業者に丸投げの状態にある。販売業者はどうしても責任を認めたがらないし、クレームの事実を隠したがる。ISO取得でマニュアルを重視するため、クレーム隠しを助長する場合もある。このため同一のビルメン現場で同じクレームが繰り返されることになる。その場合、現場にこれらを解決できる人材がいればクレームは起きない。
現場に対してメーカーは依らしむべし、知らしむべからずの一言につきる。最近もある現場が大手メーカーにワックスの密着理論に関しての問いあわせを行ったが、「そのような理論は木をみて森を見ずで、それを知っても現場のあなたには何の意味もない。それよりもこちらが推薦する商品を使え」との回答だったという。もちろん他社商品を紹介するわけはない。現場は最適で安い資材を必死で探している。現場が知りたいのは、どのメーカーのどの製品がよいかの選択やクレーム情報である。
受注価格が低落する中、安くてよい製品を使わなければ、そのつけが全て自分に降りかかる。価格の低落でコストを下げようとして、早く作業を仕上げるため、かなり危険な薬剤を使用せざるを得なくなる。
危険な薬剤として弗酸、弗化アンモニウム、高濃度過酸化水素、塩素系溶剤、農薬系殺虫剤などがある。こうした薬剤の販売業者は、プロが使えば安全という説明だけで、製品には業務用および劇毒物の表示があるだけである。
このように現場は情報的には離れ小島であり、それも上意下達である。昨年のサーズ騒動でもパニックになるため現場に情報を流さなかったという発言まであり、現場の実情を表している。
しかし現場では研究資材もなく本社の目を避けてデータ収集している人達がいる。これらの本社や関連協会では全く評価されない埋もれた研究を公開していきたい。