ファミリーとしてお客様目線で経営スピードを上げていきたい
諸星重文(もろほし・しげふみ)氏略歴 1950(昭和25)年、神奈川県小田原市生まれ。1973(昭和48)年、成蹊大学経済学部経営学科卒業。同年、諸星運輸有限会社(現・諸星運輸株式会社)入社。輸送・倉庫事業を中心とした物流事業を全国規模に拡大させる。現在に至るまで、複数社のM&Aを実行し、グループとして成長。1996(平成8)年より諸星グループCEO(現職)を務める。2000(平成12)年、中国へ海外進出を果たす。2019(平成31)年、シーバイエス株式会社代表取締役会長兼社長に就任。
――昨年10月末にシーバイエス㈱の会長に、そして今年3月には社長にも就任されましたが、まずそのへんの経緯から教えてください。
諸星 我々諸星グループは今から45年前に、シーバイエスの前身の外資のジョンソン社と物流の面でお付き合いをしていた。45年間ずっとお付き合いをしてきて、途中から企業合併や株主変更があり、 経営層が頻繁に変わった。そのため長期の戦略とかがその都度変わって右往左往していた。我々と一緒になれば完全に〝内資〟というか中長期視点で経営ができるという展望の下に事業を発展させていきたいなと思った。そうすればグループ全体で良くなる。シーバイエスが良くなれば、我々も良くなるし、お客様も良くなる。そう思ってシーバイエスを前株主の投資ファンドから買収した。
――今回の買収でシーバイエスは諸星グループの一員となったわけですが、この会社のグループ内における位置付けは?
諸星 基本的に言うと我々は物流が主体だったので、製造からお客様までお届けするのが物流だから今回の一件はフルラインで全部揃ったと思っている。そのノウハウを使って、グループ全体で横展開できればと考えている。
――シーバイエスの一番の魅力は何ですか。
諸星 人の部分。45年間お付き合いしてきたので、〝良い方々〟という言い方をすると簡単になってしまうが、皆さん人柄の良い方が多い。色々と我々に協力してやっていただいたという経緯がある。そういう人たちが右往左往しないようにできれば…という思いはある。
――それだけ長い間のお付き合いがあると、買収劇によくある混乱はありませんね。
諸星 そういうことはない。諸星グループはシーバイエスと付き合いが長いので、だからみんな安心して仕事ができるということが、全ての始まりではないかと思っている
――外から見てきたシーバイエスの印象は?
諸星 何が大事かっていうところで、お客様目線に立っていない。割とシーバイエスサイドの会社目線で、そのままモノを流そうという傾向がある。こちらからプッシュするだけで、お客様から来る要請にはなかなか応えられなかったというのはある。外資系には割とそういうところが多いが、そうではなく日本的な形でお客様から来るものに我々がそこを目指していかないと…。ちょっとそういうところが今まではなかったのかな…と思っている。
――そのへんの顧客目線を意識して始めていることはありますか?
諸星 営業ではお客様のところに個別に面談に行って、お客様のご要望とかをお聞きして、それを基に我々はやっていこうということを走り出している最中だ。
――会長になってから社長を兼務するようになるまでに数カ月のインターバルがありましたが、この間に考えていたことはありますか。
諸星 シーバイエスは今どうやって動いているのかとか、意思決定はどうなっているのかとか、ちょっと考えていた。これから先どうすればいいかと考えた時、とにかくスピードが遅いので、そのスピードを上げようと…。お客様からの要望があれば、途中経過でもいいからすぐに反応しようと。ところが、なかなかスピードが上がってこない。
――外資系というと、スピードが重視される印象がありますが…。
諸星 普通の外資系ならそのままトップダウンで行くのだが、シーバイエスにはファンドがいた。ファンドの意向によって方針が決まってくるので、ファンドに対するプレゼンとかが多かった。それでスピードが遅くなってしまう。顧客目線でスピードを速くするという部分に問題がある。先ほど言ったように、市場に対してプッシュしているだけで、それをプルにもっていかないと変わっていけないかな…という気がしている。
――外資系から日本式の経営方針への転換で、社員に戸惑いはありませんか?
諸星 もちろんあるとは思うが、標榜しているのは昔みたいなファミリーでやっていこうということ。今から20年近く前はジョンソン・ファミリーとしてお客様や従業員や調達先も入れて一つの目標に向かっていこうというのがあったので、そこへ揺り戻そうかと思っている。最近、シーバイエスを含めた戦略パートナーさんに言っていることは敵対するのではなく、これからはファミリーとしてやっていくことを強調している。シーバイエス・ファミリーという一つの家族として、お互いにウィン・ウィンではなくて「共生」していこうというような会社にしたい。シーバイエスが幹の部分で皆さんに寄って集まっていただき、一つの家族、ファミリーとして皆がハッピーになれる場を創りたいと思っている。
ビルメンにも適用できるハサップの考え方
――ビルメン市場の課題は、どのへんにあるとお考えですか?
諸星 皆さん、ビルメン市場はシュリンク(縮小)しているとおっしゃるが、私は決してそんなことはないと思っている。床の素材が変わってきているので、その素材に対して我々はどういうサービスなり製品を供給できるかがこれからの課題だと思う。もっと言うと、これまでは床にワックスを塗るのがメインだったが、清掃とかクレンリネス(清潔)を含めたトータルのソリューションとしてビルメンのお客様に提案したい。そのためにどうやればいいかというのは、これからの仕組み作り次第だ。床自体の面積は縮小しているわけではない。床材が変わっているだけで、床そのものに対するメンテナンスは変わっているわけではなく、逆に増えている気がする。そこに我々がヒットする商品なりサービスをどうやって提供できるかがこれからの課題で、それを進めていきたい。これからは労働力の問題で人手が足りなくなる。省人化をどうやって我々が支えていくかもこれからの課題だが、まだまだ市場は大きいと思う。
――言われる通り、ビルメン業界は、人手不足に悩まされています。
諸星 ケミカル系も含め、時間をかけなくて簡単にできるというところへもっていきたい。もちろん機械やロボットを使ってやるのも大事だが、もう少しそちらの方も手掛けていきたいと思っている。
――確かに現場の人は高齢者や外国人の方も多いので簡単なものの方が良いですね。
諸星 簡単に誰でもできるような機械やケミカルを提供できればいいのではないか。ケミカルで言えばサッと一拭きでできるとか、ロボットならちょっとボタン一つ押せばできちゃうとか、日常のメンテナンスが簡単にできるとかが開発のテーマになると思う。「誰でも簡単にできる」が、これからのキーワードになるのではないかと思っている。
――しかし、簡単に使えるケミカルは汚れ落ちが良くない面もあり、効能と使い易さを両立させるのは大変です。
諸星 でも、そこはチャレンジしないと今のビルメンの趨勢や動きに我々は乗っていけなくなるので、先頭に立って色々な提案をしていきたいと思っている。
――一方で、最近は環境面への配慮も求められています。
諸星 基本的には環境をメインにやっていかなければならない。シーバイエス(C×S)の社名であるクレンリネス(C)とサニテーション(S)が環境を良くする。環境に悪いもの、例えばCО2なんかを出さないような格好にもっていけたらいい。環境に良いものは汚れ落ちが良くないといわれるけど、環境面と効能を製品ごとに点数化できたら面白いかもしれない。この商品は、環境面は何点だけど汚れの落ちは何点とか…。
――最近よく話題になる「働き方改革」についての取り組みは?
諸星 工場でも営業でも「効率を上げなさい」というのは一般論としてはあるが、なかなかそうはいかないところもあるのでキチンと公私のメリハリをつけて、一人で全部やるのではなく、ダブルでお互いに休んでもフォローできるように…と考えている。営業マンも含め多機能化をしていかないとなかなかできないと感じている。多機能化が我々の業界の「働き方改革」の一つのキーワードになるかもしれない。
――経営方針で根幹に考えていることは?
諸星 これは私が就任した時に言ったことだが、自分の子供や孫が入りたいというような会社にしようと思っている。皆が働き易くて安心でき、ファミリーとして一緒になってできるという会社にしたい。具体的に言うと、各々のセグメントではナンバーワンになり、それをくっつけてファミリーとしてやろうと。業界の中でビルメンやフード関係を含め、ソリューションを色々と提供できるのはシーバイエスだけ。そこをもっと強化していけば、働き易くなっていく。それには先ほど言った多機能化などが必要になってくるのではないかと思う。
――近年、御社は飲食の衛生関係への進出が顕著です。
諸星 ハサップ(HACCP=危害要因分析重要管理点)という言葉はフード系のところから来ているが、あれはビルメンにも適用できる。例えば、ここの清掃は何月何日にどういう風にやったという、ハサップのようなことを横展開していこうと狙っている。レストランだけでなく、ビルメンにもハサップの考え方を広げていきたい。お客様は夜やっている清掃を誰も見ていない。それを「見える化」してあげれば安心するので面白いかなと思う。今後、外国人労働者が清掃をやるようになると管理も必要になるので、ハサップはビルメン業界も含めてやりたいという思いはある。
――他に重点的に行いたい施策は?
諸星 施策というより全体のソリューションというか、ハサップやビルメンを含めセットでお客様に提案できるものを行いたい。どちらかというとソフトの部分、サービスの部分をもうちょっと充実させていきたいと思っている。モノを売るのではなく、お客様の満足度を売るというか…。
――顧客満足度という面ではプロの業者だけでなく、一般消費者も意識していますか。
諸星 それは考えている。我々の製品はプロ用だから、プロの品質とかレベルを家庭用に少し応用できないかという思いはある。家庭でも簡単にできて、それ相応の効果が出るような我々のノウハウをそちらの方に使ったら結構面白いかなという気はしている。一般家庭も今は掃除をアウトソーシングしていることが多いので、我々がそこで何か提供できないか、チャンネルをもっと広げてやっていきたいと考えている。
――世間では他業種とのコラボレーションも盛んです。
諸星 私がよく言っているのはグレーゾーンというか、本業なのか分からないゾーンを一緒にコラボしてやったらどうなるかを少しずつやりたいと思っている。そうやってもう少し幅を広げられれば、新しいチャンネルが発見できるかもしれない。