ベトナム ノイバイ空港12時25分着のANA857便。この旅客機は、外国人技能実習生の面接出張と思しき日本人と乗り合わせることが多い。空港到着ロビーで、監理団体名や企業名が大きく書かれたプラカードを掲げた送出機関の営業マンに出迎えられ、空港出口に横付けけされた大型乗用車にスーツケースと共に吸い込まれてく男性グループを見れば一目瞭然だ。送出機関は、フォード社製のトランジットというミニ・バス(写真)をチャーターすることが多いのだが、このトランジットが何台も並ぶ様から、ベトナム送出機関の並々ならぬ熱意が窺える。空港・ホテルの送迎、観光案内、食事、お土産など、ありとあらゆる接待が繰り広げられ、ある意味至れり尽くせりなのがベトナム送出機関の定番営業スタイルだ。ベトナムは、現在日本が受け入れをしている実習生のうち47%を占めており(2018年6月時点)、300社以上ある送出機関が日本に向けた営業に鎬を削っている。しかし、現地視察の案内や実習生の面接などのような必要な手順にとどまらず、中には行き過ぎた接待や悪質な仲介に歯止めが利かなくなっているケースも散見されるという問題点も指摘されている。結果的にそのシワ寄せが来るのは実習生で、経済的負担や劣悪な労働状況を生むことが懸念される。
この4月から新設された在留資格「特定技能」は、そんなベトナム送り出しビジネス事情で、今最も注目されている事柄だ。深刻な人手不足と認められた14の特定産業分野で、今後5年間で約34万5千人を上限とする外国人材受入れが行われる。「ビルクリーニング」においても3万7千人の枠が設けられ、期待が寄せられている。職種ごとに求められる日本語能力と技能評価の試験に合格するか、あるいは3年以上の実習を良好に終えた技能実習生は試験免除で、同一職種の特定技能労働者として5年間の在留ができるようになった(特定技能1号)。すでに実習生の最大の送出国であるベトナムにおいては、「特定技能」に移行しやすい側面を持っている。だからこそ、制度の健全な活用が不可欠といえる。
G20サミットが明けた7月1日、安倍首相とフック首相立ち会いのもと、「特定技能」の導入に伴うベトナム人労働者の日本への受入れに関する協力覚書が交わされた。これにより、ようやく正式にベトナムから「特定技能」人材の送り出しがスタートを切ることとなった。政府間の受け入れ枠組みが固まったことから、今後はベトナムにおける技能評価試験の実施計画、人材募集や送り出しのルール設定が本格化するだろう。「悪質な仲介業者の排除」という文面を含む覚書が効果を発揮し、ベトナム人の就労が意義のあるものとなり、制度が両国間の友好の架け橋となることが期待される。
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川口 環(かわぐち・たまき)
1968年12月15日、愛知県生まれ。中央大学卒業後、TOTO株式会社を経てWebマーケティング会社 「株式会社ジェイティップス」を設立。約20年間、多数の大手企業Webマーケティングに関与し、グロースハックさせる。ニッチ領域のWebメディア開発を得意とし、数々のバーティカルメディアを立上げ、昨今は、外国人技能実習の無料相談ポータルサイト「外国人技能実習360°」運営責任者として、海外送出機関のリサーチと受入企業の相談にあたっている。年間20回以上海外出張し、約150日間を東南アジア各国で活動する。