フィリピンの首都マニラから北西へ車で3時間ほどに位置するパンパンガ州アンヘレス市を初めて訪れた。かつてはアメリカ軍のクラーク空軍基地があり、その関連産業で栄えていたが、今では『クラーク経済特別区』として、各種産業の誘致に積極的である。年配の方であれば、第二次世界大戦当時大日本帝国海軍が占領し、神風特攻隊が最初に飛び立った地としてご存じの方も多いだろう。政府移転、新空港、高速鉄道の建設など、総額140億㌦(約1兆5000億円)の超巨大プロジェクトが進行中の注目エリアだ。
そんな転換期真っ只中のアンへレスで、外国人技能実習送出機関を立ち上げたサイトウ・ マリア・エングラシアさん(写真)に出会った。サイトウさんと日本との関わりは、大手企業向けのビジネス英会話の教師に始まり、横浜のレストラン経営など20年にも及ぶ。日本語が堪能なだけではなく、日本の文化や習慣も熟知している聡明な女性だ。日本人の思想や仕事に対する姿勢は、サイトウさんにとって常に大きな学びがあるという。
そして、ここ数年は主にフィリピン国内で女性の自立支援活動に精力的に携わっている。フィリピン経済は出稼ぎ労働者からの送金が国内総生産(GDP)の1割近くに上るなど、約1000万人の出稼ぎ労働者に支えられているといわれている。一方、国内においては女性が定職について経済的に自立することは難しい。フィリピンでは企業は従業員を半年間雇用すると、正社員として雇わなければならない法律がある。一旦正社員になると労働者優位の解雇規制がかかることから、解雇が難しくなる。雇用者はそれを回避するために、半年ごとにパート雇用と解雇を繰り返すという悪習があるようだ。
その結果、特に女性の単純労働者はジョブホップを余儀なくされ、安定的な収入を得ることができないという側面がある。フィリピンは出生率が高く、子供を何人も抱えるシングルマザー率が高いことでも有名だが、そのような女性たちの貧窮がフィリピン国内の犯罪や治安に影響を与えているかもしれないと、サイトウさんは憂慮する。このような状況を打破しようと、女性の経済的な自立の道筋作りとして、外国人技能実習送出機関『JP21』の設立に至ったのだ。「実習生として日本へ渡り、日本語と確かな仕事の技術を習得することで、帰国後も、安定的な職につくことができるはず」「フィリピン人のためだけではなく、お世話になった日本のために何か恩返しがしたい」とサイトウさんは意気込む。社名の由来は、日本(J)とフィリピン(P)の21世紀の未来へ向けてという願いを込めてのものだという。
次号では、この『JP21』の今後の構想と目指す姿について詳しくレポートする。
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川口 環(かわぐち・たまき)
1968年12月15日、愛知県生まれ。中央大学卒業後、TOTO株式会社を経てWebマーケティング会社 「株式会社ジェイティップス」を設立。約20年間、多数の大手企業Webマーケティングに関与し、グロースハックさせる。ニッチ領域のWebメディア開発を得意とし、数々のバーティカルメディアを立上げ、昨今は、外国人技能実習の無料相談ポータルサイト「外国人技能実習360°」運営責任者として、海外送出機関のリサーチと受入企業の相談にあたっている。年間20回以上海外出張し、約150日間を東南アジア各国で活動する。