インドネシアの大きな特徴の一つは、都市部と地方との経済状況の落差だ。牧歌的な東南アジアの情景をイメージして首都ジャカルタを訪れると、近代化された街並みにビックリする人も多いだろう。どこへ行っても人だらけ。交通渋滞は当たり前。ローカル電車に乗れば、日本の満員電車並みに混雑していることもある。3月にはインドネシア初となる地下鉄「ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)」も開通し、ますます都市化の波が押し寄せている。一見豊かに映るこの国から、「本当に技能実習生が日本へ来ているのか?」と疑うほどだ。
そのジャカルタから東へ約300㎞。ジャワ島の西ジャワ州に「マジャレンカ」というあまり日本人には馴染みのない貧しい農村がある。辺り一帯に広がる田園風景の中に、ポツンと佇む古い建物。この某日本語学校は、これまで訪問した施設とは色々な意味で様相が異なる。体育館のような無機質な空間には机や椅子がなく、エアコンもない。床に座り教科書とノートを置いて皆黙々とメモを取りながら熱心に学習に取り組んでいる。二十代前半の学生たちは、村に住む地元民で、仕事の合間を縫って毎日通ってくるという。
この学校を運営するネナさん(31歳)は、元技能実習生として日本で就業経験を持つ地元出身者だ。千葉県の鉄工所で3年間の実習を終えて、6年前に帰国した。日本では良い受入企業に恵まれて、仕事の技術だけではなく、日本の文化や作法など多くのことを学んだという。帰国してからは、家族や村の友人たちに日本での生活や体験を伝え歩いた。そんな中、一部の後輩から「日本のことをもっと聞かせて欲しい」、「日本語も教えて欲しい」と頼まれて、自宅の軒先で勉強会を開いたのが始まりだ。それが評判を呼び、次々と生徒が増えて、今では常時80人規模の日本語学校を運営するに至ったという。この学校は送出機関のライセンスを持たない、いわゆる単独型の日本語学校だ。通常、実習生は面接に合格し、日本での受入企業が決定してから入学・入寮するが、そのモデルとは異なる。まず自宅からの通学で3カ月程度、基礎学習を行う。順次、提携先の送出機関から斡旋される企業の面接に臨み、合格した段階で卒業。その後は、送出機関の学校へ転入し、日本入国へ向けてレベルアップを図るスキームだ。
そのため地元で家業を手伝いながらでも、各々のペースで日本を目指すことができる。元実習生の経営者ならではの発想だ。「日本でしっかり学んで、しっかり稼いで、またこの村に帰って来て欲しいですね」というネナさんはとても眩しい。西ジャワの果てで出会った頼れる兄貴とその背中を追いかける「金の卵たち」。これからのインドネシアの発展は彼らが担っていくと確信している。
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川口 環(かわぐち・たまき)
1968年12月15日、愛知県生まれ。中央大学卒業後、TOTO株式会社を経てWebマーケティング会社 「株式会社ジェイティップス」を設立。約20年間、多数の大手企業Webマーケティングに関与し、グロースハックさせる。ニッチ領域のWebメディア開発を得意とし、数々のバーティカルメディアを立上げ、昨今は、外国人技能実習の無料相談ポータルサイト「外国人技能実習360°」運営責任者として、海外送出機関のリサーチと受入企業の相談にあたっている。年間20回以上海外出張し、約150日間を東南アジア各国で活動する。