ベトナムMD人材開発㈱出身の技能実習生 ㈲Taikiで働きながら将来の夢を追う
日本語のマスターを目指し、ビルクリーニングで活躍中
ビルメンテナンス業界では高齢化や若手入職者の減少などによる人材不足の解消が喫緊の課題となっている。その解決策の一つとして外国人技能実習生の活用が注目されているが、岐阜県岐阜市に本社を置く有限会社Taikiではベトナム社会主義共和国出身の技能実習生3人が戦力として活躍している。昨年10月8日に入国してから半年。異国の地でビルクリーニング業務に励む若者3人に、来日の動機、日本とベトナムの文化の違い、将来の夢などを聞いた。
3人はベトナム北部出身の女性グエン・トゥイ・ジャンさん(20歳)、同中部出身の女性ダン・ティ・ホンさん(19歳)と男性のチャン・ドック・ジュンさん(22歳)。
ジャンさんはベトナムの大学に一旦は入学したものの、日本語を本格的に勉強するために退学し、喫茶店で働いて来日の資金を貯めた。来日した目的は金銭面の理由が大きかったが、「日本の習慣と日本語を勉強したかった」からだった。喫茶店での接客業と現在従事しているビルクリーニング業では一見共通点がないように感じられるが、喫茶店で使う食器類は常に清潔にしておかなければいけなかったため、いつも清潔にしておく点はクリーニングと共通しており「今の仕事は自分に合っている」という。

グエン・トゥイ・ジャンさん 20歳
男性のジュンさんは来日前の2年間は徴兵制によって兵役に服していた。軍隊をやめてからは技能実習生として来日するために親戚の店で働きながら日本語の勉強を開始。数ある外国の中から日本を選んだ理由は「最近、ベトナムでは日系企業が多くなってきており、技能実習の期間で学んだ日本語の能力を生かして日系企業で働きたいと思った」からだ。
一方、ホンさんは高校卒業後、弁当を作る日系企業に就職。そこで日本の文化と日本語に興味を持ち、来日を決意した。
来日前には3人ともベトナムの送出機関であるベトナムMD人材開発株式会社で半年間研修を受けた。初めの5カ月間は日本の文化や日本での働き方といった基本的なことを学び、最後の1カ月間でゴミの分別法や清掃道具の使い方など技術的な指導を受けた。
現在、女性のジャンさんとホンさんは愛知県稲沢市のショッピングセンターで日常清掃の仕事に従事している。一方、ジュンさんは岐阜、愛知、三重と毎日現場を変えながら、定期清掃にあたっている。「現場によって使う清掃道具が違うので覚えるのが大変だけど、毎日違う環境で新しい体験ができるので楽しい」とジュンさん。
日本と海外の清掃の違いの一つにトイレ清掃がある。海外では男性トイレは男性が、女性トイレは女性が掃除することが普通だが、日本では女性が男性用トイレも清掃することが一般的だ。

チャン・ドック・ジュンさん 22歳
ジャンさんとホンさんも初めは男性トイレに入るのは恥ずかしかったそうだが、年配の女性清掃員が頑張ってやっている姿を見て、自分たちもやらなくてはと思い直し、行ったという。
日本という異国で働く上で最も重要なことは、3人とも日本語の能力だと口をそろえる。現場施設の利用客に場所を尋ねられたり、スタッフとのコミュニケーションなど、あらゆる場面で日本語の理解力が求められるからだ。「日本語は聞いて大体理解することはできても、相手としゃべることは難しい。私はベトナムで一生懸命日本語を勉強してきたが、日本に入国した時、日本人の使う日本語が来日前に習った日本語と違うのに驚いた」と、3人の中で最も日本語能力が高いN3(日本語能力検定3級)レベルのジャンさんは言う。
この言葉の壁を乗り越えるためにジャンさんは、家にいる時は鏡に向かって一人で話す練習をしたり、一緒に暮らすホンさんと日本語で会話したり、テレビで日本の番組を観て勉強しているという。
外国人にとって日本語が難しく感じられる要因の一つに、漢字、カタカナ、平仮名と3種類の異なる文字が混在していることが挙げられる。中でも漢字は音読みや訓読みの区別もあるため、彼らには更に複雑に感じられる。
ビルメンテナンスの現場では作業後に日報を書くことが求められるが、彼らも日本人従事者と同様に日本語で日報を書いている。参考までに…と見せられた彼ら直筆の日報には、平仮名やカタカナだけでなく、几帳面な文字で漢字も記されていて、日頃の努力の跡が見て取れた。
来日してから半年という短期間の間に、彼らがここまでできるようになった陰には、毎日その日にあった出来事を日記に書き記すといった地道な不断の努力があった。
ジュンさんは将来について、技能実習期間の3年間で日本語を勉強して、現在N4レベルの日本語能力をN2まで上げたいと考えている。そして日系企業に就職して、お母さんの傍にいてあげたいと話す彼の夢は大きい。
「自分の生まれた町は貧しくて小さな町なので、今はまだビルがあまりない。だから取りあえず日本語や技術の勉強を頑張って、将来故郷にビルができたらビル管理会社を起業して社長になりたい」

ダン・ティ・ホンさん 19歳
一方、ホンさんの夢は、帰国したら日本語能力を生かして日本と貿易する仕事に就くこと。「ベトナムでは日本の化粧品が人気があるので取り扱ってみたい」と目を輝かせる。また、ジャンさんは3年間の実習期間をもう2年延長して日本語をもっと勉強して、将来は「ベトナムで日本語の先生になりたい」と明確な目標を口にする。その強い思いは、入国時に空港まで迎えに来た監理団体の「ガラス外装クリーニング協同組合」(本部・名古屋市中区)の関係者にいきなり「3年で日本語をマスターしたい」と宣言して驚かせたほどだ。
まさに三者三様といえる将来のキャリアパスだが、3人に共通する思いはビルクリーニングという仕事を通じて身に付けた清潔にすることの大切さ。自分たちの後に続く後輩の技能実習生たちには、それと共に「報告・連絡・相談の重要性」(ジャンさん)「日本人の法令遵守の精神と働き方」(ジュンさん)「分からないことは勝手にやらずに、まず相手に聞くこと」(ホンさん)を伝えていきたいと考えている。
受入企業・㈲Taiki野村誠司専務取締役に聞く
技能実習生は先輩から後輩へ、絶やさずに雇用していきたい
Q 技能実習生の受け入れを決めた理由は?
野村 ビルクリーニングは若い人を雇用してもなかなか続かない業種だが、実習生を入れれば3年とか5年とか安定した雇用が確保できる。雇用が確保できれば、業務計画も先のことまで考えられる。
Q 実習生の受け入れには住宅費などコストもかかるが…。
野村 日本人を募集して雇用しても来月にはいないかもしれないという不安がある。それより3年とか5年とか間違いなく働いてもらえる方が、多少コストがかかっても長い目で見ればそちらの方が良いと思っている。
Q 今の実習生3人に対する率直な感想は?
野村 予想以上、出来過ぎだと思っている。特に男性のジュン君は一緒に現場に行ったりするが、一生懸命日本語を覚えようとするし、言われたことを何とか自分で呑み込んで身に付けようという気持ちがあるので、今の日本の若者とは違うなと感じる。こちらもそれに何とか応えなければと思っている。1年後、2年後が楽しみだ。
Q 実習生に対する社内外の反応は?
野村 初めはウチの日本人スタッフも実習生に対して(待遇面等で)複雑な気持ちだったと思うが、実習生に一生懸命教えたりしてフォローしてくれたので、お客様からも実習生に対して否定的な意見は全く出ていない。
Q 実習生に対し、配慮していることは?
野村 新しく入った実習生は雑用的な単純な仕事に回ることが多いが、なるべく新しいことをさせたりしている。機械を使って中心となるようなことをやらせると本人も楽しいだろうし、次の現場にもつながると思っている。3人の休みがなかなか合わない中でも、たまに一緒に食事をしたり、アパートを訪問したりしている。
Q 実習生を受け入れる前と後で感じた違いは?
野村 外国人が日本で暮らすことに関してはマイナスのイメージがあると思うが、それが予想以下だった。日本の習慣とかマナーを理解して真面目に生活していこうという気持ちがあるので、彼らは本当に問題ない。
Q 技能実習生を受け入れる上で最も大切なことは?
野村 実習生を受け入れてもプライベート面の準備ができていないと、彼らは仕事よりも生活面にストレスを感じ、仕事にも影響してくると思うので、その点の準備が必要だ。
Q 3人の実習生に対する今後の期待は?
野村 今の3人はウチとしては2期目の実習生だが、1期目の実習生にとっても良い刺激になっている。後輩が来て自分たちが何をしたらいいかという気持ちになっており、次に後輩が入った時に、今の彼らも同じように刺激を受けてくれれば…と思う。
Q 送出機関のベトナムMD人材開発㈱に対して感じることは?
野村 来日する前にベトナムで約6カ月間、日本語の勉強やゴミ出しの仕方とか日本の習慣の細かいところも全部指導していただいているので助かっている。あとは我々がそれを守らせるだけなので、我々としては負担が少なくて済んでいる。今の3人は私がベトナムまで行って面接して採用したが、その時に会社を見させてもらった。実技ができる施設もあって充実しており、これから採用を検討する企業は、現地に1回は行って見た方がいいと思う。
Q 今後の受け入れについてのプランは?
野村 先ほど先輩後輩の話をしたが、今後も実習生の雇用は絶やさないようにしたい。雇用できる人数は会社の規模によって決まりがあるが、まずは先輩から後輩へというつながりが絶えないように、やっていきたい。