新たな試みとなる選手村の段ボール製ベッド
――2020年、東京オリンピック・パラリンピックの年を迎え、現在の心境からお聞かせください。
橋本 昨年9月、東京大会に向けて最終段階に入った大事な局面で、オリンピック・パラリンピック担当大臣を拝命いたしました。非常に光栄であると同時に、これほど重要な仕事を任せていただいたことに、大きな責任を感じています。
一戸 大臣は前回の東京オリンピック(1964年)の開会式の日に、「聖子」という名前をお父様から付けていただいたわけでしょう。名前がオリンピックを象徴している上に、選手として7回も出場なさっているんだから、まさに適任ですよ。
橋本 この名前は、オリンピック選手を目指すきっかけになりましたね。オリンピックと共に半世紀超を生きてきた私としては、今回オリンピック・パラリンピックの確かな成功はもちろんのこと、東京大会のレガシー(遺産)をいかに作り上げていくか、そこに大きな力を尽くしていきたいと思っています。
一戸 われわれも、ビルメン事業共同企業体として東京オリンピック・パラリンピックで選手村のハウスキーピングという大きな仕事をいただきました。この人手不足の折、初めは難しい仕事になりそうだな…と正直腰が引けるような気持ちもありました。しかし、お引き受けした以上は、各国の選手が最高のパフォーマンスを出せるよう、安全と衛生を第一に選手村の態勢を十二分に整えるのがわれわれの仕事。「選手村から良い思い出を作ってもらえるような仕事をしたい」と考えています。
橋本 非常に大変なお仕事ですよね。しかし選手村は各競技のスペシャリスト、いわばプロフェッショナルが集まる場所。その安全・安心・衛生を守り抜くことは、やはりビルメンテナンスのプロでなければできない仕事であると思うんですよ。もちろん選手村だけでなく、すべての場において、その道のプロに参画していただいて、この大会を成功させるためのご尽力を得ています。
一戸 日を追うごとに、各方面から新しいアイデアが出てきますよね。選手村で使う段ボール製ベッドも面白い試みです。
橋本 あれは私も、非常にいいアイデアだと思いました。また、すべての選手が自分の体の各部位に合った硬さのマットレスをカスタマイズできる。日本の選手たちには、ここ数回のオリンピックに自分専用のマットレスを持っていってもらったんです。マットレスのどの部分を硬くして、どの部分を柔らかくするか。一つのマットをタテに三等分し、3種類の硬さのパーツから選んで組み合わせる。実際、マットレスの上で横になって、各自の体に合うものを選んでもらいました。
一戸 マットレスがしっかり合っているから、ベッドのフレーム部分は金属だろうが段ボールだろうが、良いベッドになるわけですね。
橋本 選手の身長によって、ベッドの長さも簡単に変えられるんです。経費は抑えながら、アスリートファーストの対応ができるよう、いろいろ工夫されていますね。
一戸 実際、選手村というのはどのようなものなのですか。
橋本 選手村の中は24時間体制で、レストランから歯医者さんまで何でもあります。一つの町のようなもので、選手村の中だけで一日を過ごせるようになっています。
一戸 とすると、選手村で快適に過ごすために選手からのリクエストとしては、どんなものが多いのでしょう?
橋本 選手たちが最も期待しているのは、やはり食事ですね。選手の好むメニューや、食材の質の高さ。そこは今回、日本食や地域特産物を活用した食事を提供するダイニングを設けるなど、選手の食を満たすために今までにない工夫をしています。次に、良質な睡眠環境。IOCから組織委員会に対しても、どの時間帯に清掃を入れるかなど、いろいろ指示が来ると思います。朝早い競技の選手は、日中休むこともありますから。
一戸 しかも皆さん、一人部屋というわけではないですよね。そこはどうすればいいのかなとまず思いましたよ。
橋本 選手団がまとめてリクエストを出す国もありますし、個人で部屋のドアに「この時間帯(の清掃)はNG」とメモを付けるとか、あるいは「タオルだけ置いていってください」と言う選手もいます。選手団全体で「ベッドメイクは自分たちでやるからいい」というところもありました。
一戸 毎日のベッドメイクは要求されていないのですね。シーツを替えるのも基本的に3日に1回でいいと聞いています。
橋本 はい。あとは、ゴミの回収ですね。
一戸 東南アジアなどは、トイレットペーパーをトイレに流さず、そばに置いてあるカゴに捨てる習慣もありますよね。
橋本 実はブラジルの選手村もそうだったんです。あれはトイレットペーパーを流す文化の選手たちからしたら、かなり大変だったんじゃないかと思いますね。
一戸 無意識に流してしまいますよね。今回は逆になるわけだけど、選手の方々も異なる風習の中でも、早く慣れて楽しんでくれたらいいですね。
橋本 日本なら、いろいろな面で選手たちも安心して選手村に入れると思いますよ。