私の古巣でもある東京ヤクルトスワローズは一昨年、球団ワーストとなるシーズン96敗。何とか変わろうと昨年、青木宣親君をメジャー・リーグから7年ぶりに復帰させ、内野の名手・宮本慎也君をヘッドコーチとして招へいするなどして、公式戦2位にまで躍進しました。しかし今季は一転、苦しんでいます。泥沼の16連敗を経て、7月1日現在、セ・リーグ最下位…。
宮本君は、非常に厳しい男です。若手をビシビシしごいています。宮本君のやり方を「古い」と言う人は多いかもしれません。しかし、宮本君のような指導者がそうやって引っ張らないと、ダメなチームはダメだと私は思います。選手主体とか、選手各自に任せるとか、そうした形がとれるのは、福岡ソフトバンクのように確固たる土台のあるチームだけです。その土台のないチームが選手に任せても、ロクなことはありません。
一つ例を挙げるなら、広島カープの強さは、常に変わらぬ泥臭さにあると思います。広島の練習は、昔から厳しいので有名。ファームの選手たちは試合が終わり、寮に戻ってからも室内練習場で素振りをしています。しかも、土の上で裸足になってバットを振るのです。それは、我々の時代――昭和の終わりから、変わっていない広島の伝統みたいなものです。
私は広島に在籍したことはありませんが、元広島の水谷実雄コーチにオリックスのファーム時代、バッティングを教わりました。当時、水谷さんは現役を終えたばかりの頃でしたから、元気そのもの。朝から晩まで、時には寮に泊まり込み、私たちをしごいてくれました。
水谷さんの練習方法は、多種多彩。裸足で走ったり、裸足でティーを打ったりと、正直「何でこんなことをするの?」と不思議に思う練習もありましたが、後になって思えば、あれは下半身強化の練習だったのです。そもそも裸足でバットを振らせたのは、江藤智君の下半身の使い方が「あまりにも下手くそだから」だったそうです。
当時、広島にいた選手たちはそんな私の姿を結構見ていて、達川(光男)さんなど「デカ、ようやったよな〜」と未だに言ってくださいます。とにかく、あの頃の素振りの量は、ハンパではなかった。あんな練習についていけたのは、私と中嶋聡(現オリックス二軍監督)、風岡尚幸(現オリックスヘッドコーチ)くらい。しかも、それを2〜3年やってきたわけです。私がその後、一軍でプレーできたのも、ひいては今があるのも、水谷さんのおかげです。
今は私たちの頃に比べ、野球道具も格段に良くなっています。道具が勝手に打球を飛ばしたり、ボールをうまく動かしてくれたりするので、どうしても道具に頼りがちになってしまいます。しかし1年間、安定した成績を残せるか残せないか、その差はそこで出てきます。春先は調子いいのに、夏場になるとバテて、終わってみたらあまり良い成績ではない選手がいます。1年を通して良い成績を残したかったら、やはり道具に頼らず自分の体を下半身から何から、鍛え直さなければなりません。広島や福岡ソフトバンクが強いのは、そういったメニューを組んだキャンプをしっかりやっているからだと私は思います。(2019.7.8号)