(2017.11/6号掲載)
――矢口社長は銀行のご出身と伺いました。全く異なる業界に転身されて、ギャップを感じませんでしたか?
矢口 当時からこの業界の社会的評価は決して高くなく、社員自身にもやや自虐的な認識があって、それを何とか払拭したいという気持ちがあった。社員自身が自分の会社や仕事に誇りを持てるような形にしたいと…。
――そのために行ったことは何でしょうか?
矢口 最初にやったのは人事制度。コンサルタントを使って社員から見える形で行った。社会から評価されるようになるためには、定期採用を行う当たり前の会社の仕組みや制度を作らなければならないと思った。
――採用面で大転換を図った訳ですね。
矢口 定期的に新入社員を入れる以上は、この会社に入って5年後、10年後どうなっていくのかという道筋を社員が見えるようにしなければ。それと並行してやったのが組織と予算作りであり、とにかく高望みしないで普通の会社になろうと…。
――社員に対し、諸々のことをオープンにしたと?
矢口 会社の業績は、社長や役員の力だけでは安定的には維持できない。それまで業務計数は開示していなかったが、経営者も節度や矜持を持ってやらないといけないし、そうでないと大きな組織を更に成長させることはできない。社員を巻き込まなければ絶対にできないし、経営に対して参画意識の高い人材がいないと成長は無理で、そうした考えから予算制度を導入した。
――人事、組織、予算と社内インフラを整備した後は…。
矢口 その後、現場に入れたのはISО(国際標準化機構)。それまでは、すべて現場の責任者に任せていた。それを誰に頼んでも同じ品質にしようと。そうして初めて、産業として成り立つ。普通の会社でサービスと言うのなら、会社として統一されていないとサービスとは言えない。そういう意味でISОを入れて品質を均一化した。
――この業界で、そこまで考えている会社は少ないと思います。
矢口 ウチの会社はそれによって、少なくとも「こうありたい」というメッセージは出しているつもり。今回、1年間かけて16項目ある行動規範「GS WAY(グローブシップウェイ)」というものを作ったが、これを通じてキチンとやることによって社員一人ひとりは自分の会社と仕事に誇りを持てる。ただ清掃をすればいいというのではなく、お客さんにいろんな提案をすることで、目に見える形で評価していただくためにブランド力を徹底することが重要だ。
──「GS WAY」と一般的なマニュアルとの違いは何でしょうか?
矢口 マニュアルを意味のある形にするには、何のために作るのか?とか、どういう思いでやるのか?という目的意識とか狙いがないとマニュアルが生きてこない。「GS WAY」には、我々が仕事に取り組むに当たって、どういう気持ちで取り組むのかという姿勢を盛り込んだ。一言で言えば、常に当事者意識を持てということ。それは仕事に対する原理原則だが、こういうものがあって初めて知識が生きてくる。
──御社にとっては、まさにバイブルのようなものですね。
矢口 「つべこべ言わず金儲けすればいいんだ、利益が上がればいいんだ」というのではそれで終わり。それと同じで「マニュアルに書いてある通りやりさえすればいいんだ」ということでは、お客さんも社員が生き生きと仕事をやっているようには見えないだろうし、臨機応変な対応は期待できない。そういう咄嗟の判断というのは、お客さんと接している現場の本人の意識がどれくらい高いか?というところで決まってくる。そういった「これが我々の仕事の流儀だ」というものをまとめたのが、この「GS WAY」だ。
──単に仕事をこなすのではなく、自ら動くということですね。
矢口 自分で判断し、手応えや自信が付けば、自分に誇りが持てるようになる。お客さんに良いサービスを提供するのが我々の最大の使命だから、誰かから言われたからというのではなく、誇りを持っている人間なら言われなくてもやるもの。そういう風に持っていくのが狙いだ。ベースにこういったものがないと、通り一遍の労務管理になってしまう。
将来のFM外注を睨み仏・ソデクソ社と提携
──この春から、「戦略FMパートナーのグローブシップ」をキャッチフレーズに掲げています。
矢口 ビルメンというのは業者。しかし、業者という意識でいる限りは卑屈にもなるし、誇りなんか持てない。業者というのは取り換え可能なもので、我々は単なるビルメンではなく、お客さんにとってかけがえのないビジネスパートナーという位置付けを目指そうと。供給サイドの区分けではなく、お客さんが本業を遂行する上で必要なパートナー、それがビジネスパートナーで、単なる業者ではない。
──しかし、FMという言葉は、日本ではまだあまり馴染みがありません。
矢口 FMというのはファシリティマネジメントだから、お客さんの持っているファシリティ、つまり施設をどういう風にマネジメントしていくのかということで、それをお客さんの立場でアウトソーシング(外注)を受けていきたいという意向表明が含まれている。確かにFMというのは、日本ではなかなか浸透していない。ビルメンテナンスのBMの方が分かりやすいのは事実だ。物事というのはすぐに変わるはずはないが、“想い”がなければ何年経ったって変わらない。自分たちがこうしたい、こうありたいという“想い”があって初めて物事が動く。私はそこが重要だと思う。そういう理念とか“想い”を持って準備をしていなければ、お客さんの期待に応えることはできない。誰にでもラッキーなことは起き得るが、準備をしていないと幸運の女神は微笑まない。準備をしていないとラッキーだとも思わない。仮に思ったとしても、準備ができていないと躊躇してしまうものだ。
──PMではなく、FMにした理由は?
矢口 FMというのは、A社ならA社の施設全体をトータルで管理するというもの。これに対しPM、プロパティマネジメントというのは、そのうちの一つひとつの建物を個別に管理するものだ。だから本社ビルはA社、地方にある工場はB社という風に別々に発注していく。PMというのは一つの建物の清掃や設備管理等を各々に発注するのではなく、1社に依頼してオーナーに代わってテナントやユーザーに対応する。対してFMは、その会社の持っている資産全体をマネジメントするもので、我々が20年近く前に日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)に入った時、「これだ!」と思った。ISОをもうちょっと突っ込んだ形で、我々の専門性を発揮できると考えた。
──「戦略FMパートナー」の他に、「快適環境創造企業のリーダー」という言葉も標榜しています。
矢口 2年前にグローブシップを立ち上げた時、ミッション(企業理念)、ビジョン(中長期目標)、バリュー(価値基準)の三つを掲げたが、この言葉の中でビジョンは、単に売り上げや利益がトップとかというのではなく、規模の大小なども関係なく、業界をリードする会社、リーディング・カンパニーを目指そうという“想い”を込めた。
──この言葉の中で、キーワードとなるのは「環境」だと思います。
矢口 当面、我々ができるのは省エネだろう。省エネのノウハウや知識を蓄積していかなければいけない。ウチはある研究所の設備管理を20年以上やっているが、そこから省エネの調査をしてほしいという依頼が来ている。そういったものを繰り返すことによって、お客さんに具体的な提案ができるようになると思う。CО2をどう減らすかというのは、日本全体が問われている問題だから。
──最後に、仏・アウトソーシングの大手であるソデクソ社と提携し、合弁会社も設立されていますが、この狙いは?
矢口 我々はソデクソという会社のことはあまり知らなかったが、ただFMのことはずっと興味があって提携の話が来た時は、是非やりたいと思った。彼らは、我々の「戦略FMパートナー」に相当する「クオリティ・オブ・ライフサービス」というコーポレート・モットーを持っている。つまり、人々の生活水準を上げるサービスをやるということで、単にビルメンとかFMだけではなく、そこにいる人たちの幸福感とかやりがいというものを、仕事を通じてどうやったら向上させられるか?を試みており、そこに最初は驚かされた。非常に志の高い会社だと思う。FMで中核事業以外のことをアウトソーシングで一括して請け負うというビジネスは日本ではまだ馴染みはないが、欧米でも十数年前までは今の日本と状況は同じだったようで、日本もいずれグローバル化によってそうなるはずだと思っている。